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江戸時代の人々から学ぶ、サステナブルなアイデアvol.06

2030年までにSDGs17の目標を達成するため私たちにできることはなにか? わたしたちは、そのヒントを江戸時代の暮らしの中に見つけました。太陽と植物の恩恵を活用し豊かな物資とエネルギーをつくり出していた江戸時代の人々。衣食住のあらゆる面でリサイクル、リユースに基づいた循環型社会が築かれていました。その江戸時代の知恵を活かし、日常でできるアクションをはじめましょう。

<参考文献>
阪急コミュニケーションズ 江戸に学ぶエコ生活術
アズビー・ブラウン:著 幾島幸子:訳

 江戸の町で暮らす人々は、その身分に応じて居住エリアが明確に分けられていました。町民は人口の半数を占めていたにもかかわらず、残された約18%の土地で暮らすしかありませんでした。この数値だけでも、町民の居住区の人口密度が高かったことがわかります。そんな空間的制約があった町民の家には樹木や花を植える大きな庭はありませんでした。それでも各家庭や隣近所でコミュニケーションを取り、園芸を生活の中に取り入れ、緑を愛でていました。
 町の緑化に取り組んでいたのは町人だけではありません。八代将軍吉宗が行った享保の改革のもとでは、植林、緑地、公園などの造園が進められました。江戸幕府の財政改革のため質素倹約の生活を強いられる町人の息苦しい心情を配慮し、贅沢ではない楽しみとして花見や紅葉狩りを許容し、隅田堤、御殿山、飛鳥山、中野の桃園などに花や植物の名所を造り、レクリエーション利用を目的とした都市緑化を行ったのです。これは江戸期の新しい動向で、かつこのような場所を国家が造ることも初めてだったようです。
 今回は植物が与えてくれる恩恵を再確認しながら、わたしたちができる緑化活動の事例をいくつかご紹介します。

「家庭でできる緑化活動」
 今日でも東京の下町の一部には、昔の面影を色濃く残しているエリアがあります。建物そのものはまったく違うのに、どこか懐かしく、ノスタルジックな印象を受けるのであれば、それは住民が屋外で植物を育てる習慣を継承しているからかもしれません。
 現代の東京もかつてとは変わらず道路が狭く住宅や店が密集しているため、たくさんの緑を植えられるような広い庭などはほとんどありません。ですが、昔の人々がそうしていたように、通りや路地、ベランダなど、少しでも空いたスペースがあれば草木や花を置いて楽しんでいます。また、下町の中には自宅の周辺に植物を置くことを、町の緑化への貢献として一種の社会的活動だと見なしている地域もあるそうです。まずは、家庭でできる緑化活動をご紹介します。

① ベランダやバルコニーにプランターを置く
植物を選ぶ際に、おすすめしたいのが多年草です。多年草とは、開花時期が終わっても根が枯れずに残り、翌年以降再び花を咲かせる植物で、一度植えたら何年も植えっぱなしで花を楽しめます。手間がかからない上に、季節ごとに咲く花によって四季を感じることができます。開花時期が異なる多年草をあえて選んで一緒に植えれば、一年を通してさまざまな種類の花を自宅で楽しむことができます。

② 夏にグリーンカーテンをつくる
グリーンカーテンとは、つる性の植物で建物の窓や壁を覆い日差しを和らげる自然のカーテンのこと。景観としての緑化はもちろんのこと、夏には建物に差し込む日差しを和らげ室温の上昇を抑え冷房などに使う電気の節約につながります。実がなる植物を育てれば食物の確保にもなります。

「趣味から保全活動へ」
 江戸の町で暮らす町人の居住地として割り当てられた土地の大部分は、埋め立て地でした。その土は粘土質でやせており園芸に適していなかったので、江戸の北の農村部から運ばれてきた肥えた土を園芸用に購入していました。この町人たちの行動によって、埋め立て地の土壌は長い年月の間に少しずつ改善されていきました。園芸はただの趣味の域を超え、環境保全のための活動にもなっていたのです。
 ほとんどの道がコンクリートやアスファルトで舗装された現代では、こういった活動をまねすることは残念ながらできません。ですが、都会に暮らしながらでもできる環境保全活動の一つとして「里山・里地保護活動」が注目をされています。里山・里地とは、原生的な自然と都市との中間に位置し、集落とそれを取り巻く二次林、それらと混在する農地、ため池、草原などで構成される地域のことです。人口減少や高齢化の進行、産業構造の変化によって、里山・里地の質と量の劣化が近年進んでいます。それを防ぐため、国や地方自治体だけでなく、企業やNPO法人が保全活動に取り組んでおり、一般の人に向けた参加の呼びかけがインターネットなどで発信されています。
 里山・里地保護活動では実際にどんなことをするのか、東京都の里山・里地保全活動の事例を抜粋してご紹介します。

・森(雑木林)の手入れ
放置された森は木の密度が高まり日光が入らず元気がない森になってしまうため、不要な樹木や竹を選別して伐採し、さまざまな生きものが共存できる環境に戻す活動。ノコギリ・カマ・ハサミなどを使う。

・田んぼの活動
クワやスキなどを使って田んぼを耕し、苗を植え、成長した稲のために雑草をとり、カマなどを使って稲を収穫し、天日干し、という工程を季節に応じて行う。

・自然観察
コンダクターが参加者に里山・里地の自然を現地で紹介する活動。その場所だからこそ会える生き物とのふれあいや、その土地の植生を知ることで、里山・里地への愛着が増すようになる。

・クラフト体験
木や竹など里山・里地の恵みでものをつくる活動。季節に合わせた生活品やおもちゃや楽器などがつくれる。

みなさんが暮らす自治体の活動についても、ぜひ調べてみてはいかがでしょうか。活動に参加するのが難しい場合は、寄付などで活動を支援するという方法もあります。

「緑を求めて歩く」
 
江戸の町は全体的に緑が多く草木の茂る場所があちこちにありました。芝の増上寺や上野の寛永寺のような大きな神社仏閣がある地域は特に緑が多く、だれでも境内に入ることができました。さらに、どの地域にもたいてい小さな寺や神社が一つかそれ以上あって、樹木が木陰をつくり、目にも美しいものでした。他にも、緑地として川の流域周辺には溜め池や湿地が自然のまま残されていたり、何にも利用されていない空き地が数多くあったりして、のどかな景観をつくり出していました。現代の東京にはかつてほどの緑地はありませんが、それでも少し足を延ばせば公園や神社仏閣を見つけることはできます。町にある緑地空間に足を運び木々や草花に囲まれて過ごせば、心も癒されリフレッシュ効果が得られるはずです。
 自分の住む町のどんなところに緑地空間があるか、散歩をしながら探してみませんか。思わぬところに緑や花や果実が根付いていますよ。

<緑地空間例>
・道路や河川沿いの並木通り
・公園
・屋上や壁面を緑化したビル
・企業緑地(※1)
・下町、城下町、城跡地域

※1企業緑地(きぎょうりょくち)=企業が所有する土地や施設に設けた緑地のこと。工場立地法では公害対策のため、一定規模以上の工場を建てる際に、敷地に一定面積以上の緑地を設けることを定めている。

日々の中で植物の恩恵を意識できるようになれば、それは緑化活動の第一歩。また、緑地空間に人が集まることがもっと日常化すれば、それによって国や自治体、企業は緑が持つ役割や重要性を再認識することとなり、より大きな緑化活動の推進につながっていくはずです。


 現代では、国や地方行政が都市計画における緑化活動の条例を定めています。例えば、新築や増築に関わる建物や土地に対しての緑化の比率を具体的に示し、計画書の精査や竣工後の調査を行っています(※2)。また、NPO法人団体なども既存の道路や公園、河川敷などを対象に行政とは違ったアプローチの緑化活動を継続しています。都市の中の草木や花は、豊かな景観と風格を生み出すことに加え、陽ざしや風を和らげ、紅葉や新緑、花などで人々の目や心を癒します。大きく目立つ街路樹や公園の他にも、ビルの足元やテラスなどの小さな植栽が街並みに優しさをもたらしています。
 町を緑豊かに保つメリットは、他にもあります。景観を良くすることはもちろん、茂る木々は周囲の生態系とも一体化し、さまざまな植物を育て、鳥や動物に餌とすみかを提供します。さらに樹木の根は水循環を助け、落ちた葉は自然の堆肥や根覆い(※3)となります。食べ物をもたらしてくれる木も少なくありません。
※2国土交通省HP緑化地域制度https://www.mlit.go.jp/toshi/park/toshi_parkgreen_tk_000080.html
※3根覆い(ねおおい)=農業やガーデニングに用いる手法。わらを横にして敷き詰め、土の上から根を覆うこと。雑草の繁殖を抑える、地温を調節する、土壌の水分蒸発を抑えるなどの役割がある。

 気候危機とともに問題視されている生物多様性の面でも、植物はなくてはならないもの。緑化活動、里山・里地保全、それらをみんなで日常的に意識することで、活力ある緑がこんもり茂っているような社会を実現する、そしてそれを人々が愛でて楽しんでいる、そんな自然も人の心も豊かな日本の未来を描いていきたいですね。
 今回ご紹介したアイデアの中で身近に感じたことなど、ぜひ実践してみてください。
 もちろん、周りの人や友人、家族と話し合って、現代ならではの新たなアイデアを出すことも大切です。わたしたちも、みなさんも、サステナブルな意識を常にもって行動し続けていきましょう。


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