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鳥取の境港で鬼太郎に浸る-3 ブロンズの妖怪像は街の記憶と結びつく

前回、前々回と、境港で鬼太郎xビックリマンのコラボ企画として行われていたスタンプラリーに急きょ参加した話を書いた。このコラボ企画は3月までの期間限定で行われていたものだ。

私はたまたま参加できて大いに楽しんだが、境港と鬼太郎の結びつきを示す真髄は、常設されているさまざまな妖怪のブロンズ像だ。

猫娘

私は東京で水木しげるゆかりの地として知られる調布の深大寺周辺にも行ったことがある。そこと比べても境港の「鬼太郎・妖怪っぷり」は桁違いだ。150体以上もある妖怪像も、水木しげるロードに並ぶお店も。話には聞いていたが、初めて訪れたときには想像の遥か上をいく徹底ぶりに驚いた。

このあたりの感想や地域活性化の視点から見た分析は、多分数えきれないほど出回っているのだと思う。だから私は、一番強く感じた点だけ記す。

それは、妖怪像が境港の街並みによく馴染んでいることだ。言い換えれば、人の日常にうまく溶け込むように妖怪が配置されている。

もちろん水木しげるロードは観光客向けのスポットであり、私が感じたのも「あくまでそのエリアではそうなっている」ということだ。境港に暮らす一般の人々の暮らしにまで妖怪が溶け込んでいるのかはわからない。ただ、800mほども長さがある水木しげるロードとその周辺は、本当にあちらこちらで妖怪が顔を出す。

郵便ポストの上にも鬼太郎

この雰囲気を伝えるのは、ディズニーランドとの対比がいいかもしれない。ディズニーランドは、「日常と切り離された魔法の国」を目指してように感じられる。これに対して境港は「日常の中に時々現れる(かもしれない)存在」として妖怪が扱われているように思える。水木しげるにとっての妖怪もまさに、子ども時代に「のんのんばあ」から聞いた話を原体験とした、そのような存在だったはずだ。その日常との近さが、私にはとても好ましいものに思えた。

境港の妖怪は、水木しげるロードやその周辺を街歩きをしていると、当たり前のようにイラストや像、店の看板やショーウィンドウに並ぶ商品などとして出てくる。最初は妖怪像に感激してパチパチ写真を撮っていたけれど途中で見慣れたものとなってきてもうカメラを向けなくなった、という人も少なくない気がする。それでも、家に帰ってくると不思議と思い出の上位として浮かび上がってくる。私のような旅行者にとって、境港という街の記憶と不可分なものになっているのだ。

かわうそ

もし、境港にあるのがこうしたものではなく、入場料を払った人だけが入れる「妖怪テーマパーク」のようなものだったとしたら、仮に超大掛かりな妖怪ジェットコースターとか妖怪屋敷のようなものがあったとしても、私は全く興味を覚えなかったはずだ。境港には、当初から意図したものかどうかはわからないが、街の中に当たり前に妖怪がいることのすごさがある。

それが境港を訪れる人に受け入れられていることを示すのが、ブロンズ像の「テカリ具合」だろう。妖怪像の中には、多くの人に触られて一部の塗装が落ちテカテカ光っているものがある。目玉の親父の頭部のように、触るとスベスベ気持ちよさそうな部分などだ。

目玉のおやじ

ねずみ男が握手をしようと差し出している手もテカテカだ。

ねずみ男

この色落ちは、みすぼらしさではなく、いい雰囲気を生み出している。こうなることを見越してブロンズ像にしたのなら、素晴らしい眼力だと思う。

ブロンズ像は、中には人の背より大きなものもあるが、大抵は数十センチほどの可愛らしい大きさだ。そして、一部のものは「寄贈者」が存在する。その像を作るためのお金を出したスポンサーだ。台座に小さなプレートが付いていることでわかる。地元企業などの組織によるものもあれば、個人の名前が記されているものもあった。

個人寄贈による像 べとべとさん

調べてみると、一部の妖怪像について公募制でスポンサーを募り建造するということを、これまでに何度か行なっているようだ。数年前の公募では、一体あたり120万円ほど(大きいものはもっと高額)だったとか。

これはいいなと思った。120万円というお金は、常に節約生活をしている私の家では簡単に出せるものではない。しかし、そのお金が妖怪像に姿を変え、境港に何十年も立ち続けるのであれば、ものすごく頑張って捻り出す価値はあるんじゃないかと。

場合によっては、子どもに対して「父さんが死んだら、お墓の代わりに時々境港に来てこの像の頭を撫でてくれ」とか言うこともできるかもしれない。一向に貯まらない老後資金を妖怪像に使うと言ったら妻に怒られそうだが、寄贈者のプレートに刻む名前を妻との連名、もしくは家族全員にしようと提案して懐柔を図ることにする。これはらとても面白そうな考えに思える。このところ毎日のように「次に妖怪像のスポンサー公募をするのはいつだろう」なんて考えながら、こんな本を読んでいる。


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