経済原論概説 第5回 剰余価値説

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今回は必要労働と剰余労働の関係について、剰余価値説と呼ばれる理論を紹介する。

剰余価値説

 可変資本(必要労働)に対する剰余価値(剰余労働)の割合を剰余価値率という。式で表すとm’=m/vとなる。企業は剰余価値を獲得することを目指すのだが、剰余価値は主に絶対的剰余価値、特別剰余価値、相対的剰余価値の三種類に分けることが出来る。

 絶対的剰余価値は必要労働(v)を超える剰余労働(m)を延長することで獲得することが出来る。8時間のうち、4時間を必要労働、残りの4時間を剰余労働に充てていた場合、m’=4/4=100%であるが、労働時間を2時間延長することによって、剰余労働時間が6時間となり、m’=6/4=150%となる。現代的には長時間労働やサービス残業がこれにあたる。

 
 特別剰余価値とは、社会的平均と個別資本の剰余価値の差を示す。社会的平均よりも優れた生産法を持っている生産者(会社)は、他の生産者よりも低コストで生産をすることが出来るため、特別剰余価値は高くなる。効率の悪い、コストのかかる生産法を導入している生産者は、特別剰余価値を得られなくなり、没落することになる。また、既存の方法よりも優れた生産法をもつ生産者が参入すると、商品価格は下落し、特別剰余価値の獲得がさらに困難になる。市場メカニズムが働くことによって、生存競争が発生し、それによって社会全体の技術水準や生産力が向上していくのである。

 相対的剰余価値は、諸資本間で特別剰余価値をめぐる競争が行われることで技術水準が向上した結果、必要労働量(v)が低下することによって獲得することのできる剰余価値である。m’=4/4=100%が、必要労働時間が2時間に短縮された場合、m’=6/2=300%となる。この時、総労働時間が7時間に低下したとしても、m’=5/2=250%となり、技術水準向上前よりも剰余価値率は上昇したことになる。

投下労働分析

 剰余価値説に基づき投下労働(生産に投入される労働)について考える。マルクス経済学では、労働者の剰余価値率を基準に投下労働分析がなされる。よって生産力が向上して投下労働量が低下した場合、剰余労働時間(m)の上昇と必要労働量(v)の低下が発生し、m/v=m’が上昇した、という結論が導き出される。一方近代経済学では、生産額や付加価値に対する所得率、営業余剰を基準に分析が行われるため、賃金が上昇した場合は所得率が上昇し、営利の低下がもたらされることを意味する。そのため労働分配率の上昇で労働者側は豊かになるが、会社にとっては不利なものであるという結論が導出される。


 ここで、英経済学者N.W.シーニアの分析と主張、またそれに対するマルクスの反論を紹介する。シーニアは、ある工場が資本10万ポンドを工場の建物や機械設備に8万ポンド、原料や労働などの流動資本に2万ポンド投資し、一日11.5時間の労働で年間11.5万ポンドが得られ、また工場の設備や機械が0.5万ポンド償却するとした場合、利益は1万ポンドであるため、労働時間が10.5時間になれば1万ポンド分の労働がなくなり、利益はなくなってしまう。10時間になれば赤字になると考えた。逆に労働時間が13時間まで延長されれば、二倍以上の純利益を獲得することが出来ると考えた。

 これに対してマルクスは、原材料や設備の償却分を不変資本とし、労働を、価値を創出する可変資本として区別すべきであるとした。原料を1万ポンド、労賃を1万ポンドとして商品価値の式に当てはめると     

11.5w=(8+1+0.5)c+1v+1m

となる。剰余価値率はm/v=1であり、労働時間で換算すると、5,75時間/5.75時間ということになる。仮に労働時間が10.5時間になったとしても剰余価値率は4.75/5.75≒82.6%であり、高い水準を保つことが出来ると反論した。 


ここまで第五回までをもって、経済原論の理論の中枢となる基本的な考え方の表面的な部分を概観してきた。本記事の内容はタイトルの通り概説であるため、マルクス経済学については『資本論』やマルクス経済学・経済原論の解説書・参考書等をご自身で読まれることをお勧めする。

次回からは2回に渡って日本近代経済史を概説する。

参考文献・関連書籍



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