短編小説「船を下りる」下
客船はゆっくりと九州の西から中国・韓国を周り、再び日本で青森に寄ったあと、また九州の東側に着く。その後は本格的に海を渡って東南アジアまで向かう。韓国と国内を回るだけでは、正直楽しくはない。やっと南の島か、と私でもいくらか期待してしまう。
日本で最後に寄港する街で、私は少しばかり散策をするつもりでいた。出航時間は午後五時。まだ十一時だからずいぶん余裕のある寄港だ。妻はカルチャー講座に熱心になってビーズを糸に通しているし、娘はボーイフレンドと広くてまだまだ道のエリアがある船