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プラハで再びFlexaretを買う

1. Flexaret VI型を手放して後悔する

11月の終わり。実に4年ぶりにプラハへ行ってきました。今回は、そこでチェコスロバキア製のカメラ、Flexaretを買ったことについて書こうと思います。実はこのカメラ、4年前にも一度購入しているのですが、結局使いこなせなくて一度手放しています(その辺りの詳しい経緯については、以下の投稿をご覧ください)。

この投稿にも書きましたが、手放した後にFlexaretで撮った写真を改めて見たらて、けっこう良い写真が沢山あることに気付き、簡単に手放してしまったことを後悔したのです。そこで、次回プラハに行ったら、再びFlexaretを買おうと決心した…、そこまでが引用した投稿に書いたことです。

2. 再びFlexaretを買うか否か迷う

さて、このたびプラハへ行くことが決まり、いよいよその機会が巡ってきたのですが、実は私はFlexaretを買うか買わないか迷っていました。常に二眼レフのハイエンド機であったRolleiflexとは異なり、Flexaretはいわば実用機でバリバリ使われ、なおかつ使われなくなった後は無造作に保管されていたものが多いようで、状態が良いまま現在まで残っているものが少ないのです。例えば、うっかりカビの生えたFlexaretを買ってしまったら面倒なことになりそうだし、事前に以下のような記述を読んでしまって、一時期はFlexaretを購入する気が失せていました。

六○年代のソ連や東欧から西側世界への政治的代表団に同行した写真記者団が携帯したのは、ライカとハッセルとローライとリンホフ、すべて西側の機材であった。理由は簡単だ。東欧のプロ写真家は東側カメラのよく故障することをだれより知っていたからだ。

田中長徳『屋根裏プラハ』新潮社、2012年

そう、それなのです。今どき機械式のカメラが壊れてしまうと、その故障具合によっては別の中古カメラが1台買えてしまうくらい修理代がかかってしまうことがあるのです。壊れた(高級機ではない)カメラを買い取ってくれる中古カメラ店はないでしょうし、だからといって今まで生き延びてきてここに存在する古いカメラを、動かないことを理由に捨てることなど私にはできません。

そんなこんなで、私は迷いを抱えたままプラハ行きの飛行機に乗りました。それでも、何故かスーツケースにカメラストラップを入れてはいたのですが。

3. 数多くのFlexaretを目の前にして迷う

2日目に天気が崩れ屋外を思うように歩けなかった日、プラハで一番大きなカメラ店へ行きました。ここはLeicaを含む最新のデジタルカメラはもちろんのこと、フィルムやカメラ周りの機材、暗室用具など幅広く取り扱っている店で、中古カメラも数多く置いています。私が訪れた時にはFlexaretの在庫が10台くらいありました。ショーケースの中でレンズが店内の照明を受けてキラキラと光っています。これだけ台数が揃っていれば、1台くらい良いものが見つかりそう…。今までの逡巡はどこへやら。私はこの時点ですっかり購入意欲満々になっていたのです。

最初は前回と同じくFlexaret VI型を買う予定でした。しかし、一番外装とレンズの状態の良いカメラのスローシャッターには粘りがありました。他のVI型も見せていただいたのですが、それぞれ気になる箇所があってピンときません。迷っている私を見てスタッフがこう言いました。

「VI型を探していらっしゃるのですか」

「いいえ」と答えました。VI型が一番市場に出回っているため、VI型についつい目がいってしまいますが、もとよりFlexaretに性能を求めていないので(性能に対する期待には、Rolleiflex 2.8Fが十分応えてくれるので)ともかく状態が良いことが一番です。「レンズとシャッターの状態が一番良いものを買いたいと思っています」と私が言うと、スタッフは新たにショーケースの中から1台のFlexaretを出してくれました。そして「II型です。VI型より古いですが、このカメラの状態が一番良いと思います」とカウンターの上にカメラを置きました。すると、ちょうど奥から出てきたスタッフが、「ああ、それ、そのカメラはカンペキですよ」と言うではありませんか。手にとってファインダーをのぞいてみると、天気の悪い日の屋内であったにもかかわらず、四隅までよく見えます。もしかしたら、以前使っていたVI型のスクリーンより明るいかもしれません。絞り羽も汚れておらず、シャッターリングや絞りリングの動きも滑らか。外観についても貼り革の色が褪色している箇所もなく、銘板右上に1箇所スレがある以外はとても綺麗です。念のためレンズの状態とスローシャッターの動作を確認してもらい、問題がなかったので、このカメラを購入することにしました。

4. Flexaret II型とは

私の手元にある『Czech Cameras: Flexaret, Optikotechna Meopta』という小冊子(英語)によると、Flexaret II型は1940年から1947年にかけて製造されたそうです。以下、このような記述が続きます。

The Flexaret II was very popular. The lenses were excellent (especially the Mirar 4.5) and the quality of the camera was very good.

『Czech Cameras: Flexaret, Optikotechna Meopta』"The Czech Cameras" Project, c2011

確かにFlexaret II型の作りは、例えば撮影レンズ周りやノブの細工など、非常に手が込んでいるように見えます。1940年から1947年といえば、第2次世界大戦下からチェコスロバキア共産党の一党独裁が始まる前のことです。社会主義経済が低迷していた頃に製造されたFlexaret VI型よりも、もしかしたら丁寧に作られていたのかもしれません(参照した冊子によれば、Flexatret IIは1940年に一度市場に出たものの、その後終戦に至るまで、物資不足によりほとんど製造されることはなかったそうです)。確かに赤窓式はフィルム送りが若干面倒ですが、Automat機構の不調によりコマが重なってしまう可能性があることを考えれば、少しくらいの手間は気になりません。手動赤窓式でよろしい。何より嬉しかったのは、私のカメラに搭載されていたレンズが「特に優れている」と書かれていたMirar F4.5(画角は80mm)だったことです(なお、以前所持していたFlexaret VI型搭載レンズはBelar F3.5 80mmでした)。いよいよ期待が高まります。カメラと一緒に買ったチェコのフィルム、Fomapanを装填して、早速プラハの街を撮影してみました。

5. Flexaretでプラハを撮る

さて、以下が「excellent」なMirar F4.5で撮影したプラハの街並みです。

Flexaret II型搭載レンズは、後にMirar F3.5に変更されているので、私のFlexaretはII型初期のもの、すなわち1945年以前に製造されたと推測しても良いと思うのです。そうなると約80年前のカメラということになるのですが、写真を見た感じではとてもそんなふうには見えません。私はとても気に入りました。
以前にも書きましたが、私が後々仲良くなることができるカメラは、最初のフィルム1本を撮影した時に、必ず「この写真は好きだな」と思える写真が撮れるカメラなのです。その点からすると、Flexaret II型には思いっきり「これからよろしくね!」と声をかけられたような気がしました。

早く再びプラハへ行って、Flexaretでプラハの街並みを撮りたいものです。とはいえ、本業が大学生(兼主婦)である私。来年3月の試験が終わるまで、旅行はお預けなんですけどね…。ああ、次にプラハへ行くのはいつになるのだろうか。早くもソワソワしています。

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