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食後景記 はじめに
食後景記 /ショクゴケーキ/ 造語
朝ごはん、昼ごはん、晩ごはん、おやつ時間。家族の食卓に見えた景色と、その記録。
一枚のホットケーキは、同棲していた当時の定番の朝ごはんだった。
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焼くのは専ら彼で、わたしは今週疲れたなーという平日に、週末ホットケーキ所望す!と偉そうに宣うだけでいいのだ。そうすれば、至福の週末がふたりを迎えてくれる。
ホットケーキの日、わたしはあのいい匂いが寝室まで漂ってくるのを夢現で待っている。
ふとんの中で目が覚めている日も、彼に呼びに来てほしくて狸寝入りをすることがしばしば。ばれてたかな。
キッチンを満たす幸せの香りが、平日の疲れを週末への期待に変えてくれる。
彼はいつも、そろそろひっくり返せるかなってタイミングでわたしに声をかけた。もぞもぞと準備をしていると見逃すこともあるけど、24cmのフライパンいっぱいに広がるホットケーキを返す彼の手腕の鮮やかなこと。
何も最初からホットケーキ作りが上手だったわけではないが、彼はじーっとそのときを待つのだ。短気なわたしは待てないで早くにひっくり返して失敗するか、強火にしてちょっぴり焦がすのが常だった。
「たぶんユウタのほうが向いてる」
まだわたしがホットケーキを焼いていた時代、無念にも香ばしく焼き上がった一枚にぱくつきながら、何気なく放ったその言葉をきっかけに、ホットケーキを焼くのは彼の重大な役目となった。
ふたりの家で一番大きなお皿を差し出せば、ホットケーキがスッと乗せられる。彼はいつもどちらの面を上にするか悩んた。
そこにバターを乗せるがわたしの役目で、あとは美味しくいただくのみ。
なぜわざわざ一枚のホットケーキを食べたがるのか。もし彼が、わたしが大きなホットケーキに齧りつきたいからだと思っているのなら、それは心外である。
一度に全部の生地を流し込んで焼き上がる一枚の大きなホットケーキは、「一緒に」を叶えてくれる。
あたたかいうちに同じタイミングで食べる、珈琲を飲みながら今日の予定を考える。それだけで蓄積された疲労やストレスが霧散していくのだった。
もうすぐ娘が産まれる。
彼女と一緒に寝たふりをして、おいしい匂いと優しい声に起こされる日がくるのだろうか。3人であたたかいホットケーキを頬張って、今日はどこに行こかと話をする、夢見たいな未来の話。
もしかしたら彼女は一枚の大きなホットケーキより、段々に積み上がった何枚ものホットケーキを食べたがるかもしれない。
それもいい。
ホットプレートを買って朝からみんなでひっくり返そう。
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