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教育の実施主体に関する法律①/学校制度全体に関する法律(学校教育法)


学校を取り巻く法律は、おおまかに次の3つのタイプに分類できます。

  • 教育そのものに関する法律(教育理念や教育権の所在をめぐる議論等)

  • 教育の実施主体に関する法律(学校や教員の組織や地位等に関するもの)

  • 学校のコンプライアンスに関する法律(いじめや体罰等、個別の論点に関するもの)

今回は、2番目の「教育の実施主体に関する法律」のうち、学校教育法について取り上げます。

学校教育法の位置づけ

教育関連の法律は、憲法26条を最上位として、(学校教育を含む)教育全体の理念を謳った教育基本法がこれに続き、学校教育については学校教育法が扱うという階層構造になっているので、「教育の実施主体に関する法律」の中心は学校教育法になります。 

なお、2023年4月に子ども基本法が施行されましたが、これまでの憲法及び教育基本法を頂点とする教育法体系には変更はないと説明されています(第208回国会内閣委員会第21号(令和4年4月22日)鈴木議員発言)。

学校教育法は、全146条から成る法律ですが、理念的な規定や細目的な規定も多いため、全体像を把握するという観点から重要な条文は限られているように思います。

学校制度全体に関する重要な規定

第一条 この法律で、学校とは、幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校、大学及び高等専門学校とする。

学校教育法上の学校は、1条に定義されるとおりです(「一条校」)。
一見当たり前の規定に見えますが、非一条校(インターナショナルスクールやフリースクール、民族学校等の一部)との関係で論点があります(就学義務違反の問題や、進学上の不利益など。詳細はこちら)。

一条校の各類型については基本的に説明不要かと思いますが、中等教育学校と義務教育学校についてだけ簡単に補足します。

  • 中等教育学校:単一の学校で中高一貫教育を行う学校。中高一貫校には他の形態も存在しており(詳細は文科省ウェブサイト)、都立の中高一貫校の状況はこちらのとおり。私立の中高一貫校は、その多くが中等教育学校ではなく併設型中学校・高等学校(71条)となっている。

  • 義務教育学校:2015年改正で創設された比較的新しい種類の学校であり、いわば中等教育学校の小中一貫版。中高一貫と同様に、小中一貫校にも他の形態がある(文科省手引17頁)。

第二条 学校は、国(国立大学法人法第二条第一項に規定する国立大学法人及び独立行政法人国立高等専門学校機構を含む。)、地方公共団体(地方独立行政法人法第六十八条第一項に規定する公立大学法人を含む。)及び私立学校法第三条に規定する学校法人のみが、これを設置することができる。
 この法律で、国立学校とは、国の設置する学校を、公立学校とは、地方公共団体の設置する学校を、私立学校とは、学校法人の設置する学校をいう。

設置者に着目すると、国立学校(※)、公立学校及び私立学校の3種類に分けられます(2条2項)。

※ 国立学校には、国立大学法人が設置する国立大学及びその附属校(国立大学法人法23条)と、独立行政法人国立高等専門学校機構が設置する国立高等専門学校(国立高専。なお、高専全体については文科省ウェブサイトも参照)がある。

私立学校は、学校法人のみ設置することができます(2条3項)。ただし、特例として、構造改革特別区域法12, 13条に基づく株式会社・NPO立の私立学校も認められています。

第五条 学校の設置者は、その設置する学校を管理し、法令に特別の定のある場合を除いては、その学校の経費を負担する。
第四十四条 私立の小学校は、都道府県知事の所管に属する。

学校の管理は設置者が行うため(5条)、公立学校であれば地方公共団体が管理者となります。実際には、地方公共団体の執行機関である教育委員会が管理権を行使します。
私立学校は学校法人によって管理されますが、都道府県知事の所管に置かれ(44条及び各準用規定並びに地教行法22条3号)、行政の一定の関与を受けることになります(詳細はこちら)。
国立学校についても、国立大学法人法や独立行政法人国立高等専門学校機構法において行政による一定の関与が予定されています。

第三十八条 市町村は、その区域内にある学齢児童を就学させるに必要な小学校を設置しなければならない。ただし、教育上有益かつ適切であると認めるときは、義務教育学校の設置をもつてこれに代えることができる。

小学校及び中学校については市町村に、特別支援学校については都道府県に、設置義務が課せられています(38条及びこれを準用する49条並びに80条)。

義務教育に関する重要な規定

第十六条 保護者(子に対して親権を行う者(親権を行う者のないときは、未成年後見人)をいう。)は、次条に定めるところにより、子に九年の普通教育を受けさせる義務を負う。
第十七条 保護者は、子の満六歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十二歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを小学校、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部に就学させる義務を負う。(略)
 保護者は、子が小学校の課程、義務教育学校の前期課程又は特別支援学校の小学部の課程を修了した日の翌日以後における最初の学年の初めから、満十五歳に達した日の属する学年の終わりまで、これを中学校、義務教育学校の後期課程、中等教育学校の前期課程又は特別支援学校の中学部に就学させる義務を負う。
 前二項の義務の履行の督促その他これらの義務の履行に関し必要な事項は、政令で定める。

16条及び17条は、保護者の就学義務を定めたものです。義務教育といいますが、学校に通う義務が子どもに課せられているのではなく、子どもを学校に通わせる義務が保護者に課せられていることがポイントです。

本条との関係では、子の不登校は親の就学義務違反かという問題があります。これについては、不登校の回で扱う予定です。

学校内の権限分配に関する規定

第三十七条 小学校には、校長、教頭、教諭、養護教諭及び事務職員を置かなければならない。
④ 校長は、校務をつかさどり、所属職員を監督する。

37条は小学校における職員の配置に関する規定ですが、組織という観点からは4項が重要です(中学校、高等学校等にも準用)。

「校務をつかさどり」とは、学校内の全ての仕事を掌握・処理することを意味すると解されています(※)。したがって、学校の内部では、校長に非常に広範な権限が集中していることになります。もちろん、校長1人で全ての仕事を担当することは出来ませんが、職員に何をどのように分担させるか(校務分掌)は原則として校長が決めます。

※ 鈴木勲編『逐条学校教育法(第9次改訂版)』(学陽書房、2022)387頁

職員会議も校長の補助機関と位置づけられており(施行規則48条)、最終的な意思決定権はあくまでも校長にあります。

校長は自ら職員に対して職務命令を発することができますし、校務分掌によって一部の職員に職務命令を発する権限を与えることもできます。各職員にはこれらの職務命令に従う義務がありますが(地方公務員法32条、地教行法43条2項)、違法の疑いがある職務命令に服従する義務まであるかについては、特に国旗掲揚や国歌斉唱をめぐって議論となっています(※)。

※ 一連の国旗掲揚・国歌斉唱に関する訴訟のほか、重大かつ明白な違法がない限り服従義務を負うとした古い裁判例がある(東京高裁昭和49年5月8日行集25巻5号373頁)。

おわりに

次回は、公立学校の管理・運営に関して定めた「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」を取り上げます。


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