教育の実施主体に関する法律③/私立学校に関する法律(私学法・私学助成法)
前回のnoteでは公立学校の組織・運営に関する法律を扱いましたが、今回は私立学校に関する法律を取り上げます。
はじめに
私立学校に関して基本となる法律は、私立学校法です。同法は、全67条からなり(※ 2025年4月1日施行予定の令和5年改正により164条に増加。以下、現行規定を前提に記載しますが、ここで取り上げるものは基本的に当該改正の影響を受けません。詳細は後述。)、行政の監督権限に関する規定と、設置者である学校法人に関する規定から主に構成されます。
私立学校法においては、私立学校の自主性を重んじるために、行政の監督権限が公立学校の場合よりも制限されています。また、学校教育が私物化されたり、一部の関係者の利益のために利用されることがあってはならないことから、私立学校の公共性を確保するため、設置者である学校法人にはガバナンスに関する様々な規律が科せられています。
私立学校は、その種別に応じて、以下のとおり管轄が分かれています。
・文部科学大臣の管轄:私立大学、私立高専
・都道府県知事の管轄:上記以外の私立学校、私立専修学校、私立各種学校
・指定都市等の長の管轄:指定都市等の幼保連携型認定こども園
私立学校については、いわゆる私学助成も重要な論点となっています。関連する法律として、私立学校振興助成法があります。
私学の自主性
私立学校にも学校教育法は適用されますので、私立学校であっても、学校教育法に基づく行政の監督権限に服することになります。
これを前提にした上で、私学の自主性尊重の観点から、私立学校法において一定の修正が行われています。
審議会への諮問
まず、学校の設置廃止、設置者の変更その他学校教育法施行令23条で定める事項に関する認可や、学校閉鎖命令を行うにあたっては、審議会への諮問が必要とされていることが重要です(8条)。諮問を義務付けることで、行政の権限行使を抑制する効果を狙っています。
大学・高専については大学設置・学校法人審議会(学校教育法施行令43条)が、それ以外の私立学校については私立学校審議会が設置されています。
例えば、東京都の私立学校審議会の構成はこちらのとおりです。
設備・授業等の変更命令に係る適用除外
次に、大学・高専以外の学校への設備・授業等の変更命令についても、私立学校は適用除外とされているため、違反があっても変更命令を受けることはありません(5条)。
学校教育法14条では「できる」とされていることが、そのまま私立学校法5条で「できない」とされていることは、条文のつくりとして不自然にも見えますが、その背景には、もともとは私立学校も変更命令の対象となっていたものを、私立学校法成立の際に、私学側の意見を容れて適用除外としたという経緯があるようです(※)。
※ 経緯について、小野元之『私立学校法講座(令和2年改訂版)』(学校経理研究会、2020)72頁
逆に、私立大学・私立高専の設備・授業等の法令違反については、原則どおり文部科学大臣の変更命令の対象となっています(学教法15条1項)。
行政によるその他の関与
私立学校への行政の監督のうち、重要なものは上記のとおりです。このほか、報告書の提出(6条)や、一定の変更に係る届出等があります(学教法10条、同施行令27条の2等)。
なお、私立学校自体ではなく、その設置者である学校法人に対する監督は、私立学校法法・私学助成法に基づいて別途なされます(詳細)。
私学の公共性:学校法人制度
私立学校法は、私立学校の設置者である学校法人についても、その設立やガバナンス、各種遵守事項について定めています。
学校法人は、理事会、監事及び評議員会からなる財団法人型(※)の非営利法人です(仕組みについては文科省資料も参照)。ただし、学校法人の組織は令和5年改正(2025年4月1日施行予定)で大きく変わる予定です。
※ 構成員がいない法人の類型を指す講学上の概念(⇔社団法人)。なお、ここでの「構成員」とは、株式会社における株主のように、「法人の意思決定に関与できるもののうち、その地位が当該法人からの委託に基づくものでない者」と定義する(後掲・大野9頁)。評議員や理事は学校法人からの委任又は準委任に基づく地位であり、ここでいう構成員に該当しない。
学校法人制度の特徴を理解する上では、非営利性に関する規定(他の非営利法人とも共通する)と、その他の規定を区別することが有用であるように思われます。
非営利性
非営利法人の非営利性とは、利益をあげてはならないという意味ではなく、構成員に財産を分配してはならないという意味で用いられます。財産分配禁止ルールとしての非営利性は、法律上は各非営利法人の根拠法において個別に規定されるかたちをとっていますが、コンセプトは共通です。禁止される財産分配には、剰余金の分配、残余財産の分配及び持分の払戻しの3種類があります。
また、財産分配禁止のほか、非営利を補完するルールとして、①設立時の資金拠出者に対する規制、②特別の利益供与の禁止、③残余財産の帰属先の限定があります(こちらについては、多くの非営利法人に共通して当てはまるというだけで、全てが必ず当てはまるわけではないことに注意してください)。
※ 以上は、大野憲太郎『税理士のための非営利法人の実務』(第一法規、2022)12頁以下の整理による。
これを学校法人についてみると、学校法人は構成員を持たないというかたちで(財団型)、財産分配禁止ルールを満たしています。資金拠出者に対する規制はありませんが、理事等の関係者に対する特別の利益供与は禁止されており(26条の2)、残余財産の帰属先も限定されています(30条3項, 51条2項)。関連規定は以下のとおりです。
その他の規定
その他の重要な規定としては、①資産の所有要件(25条)や寄附行為(会社の定款に相当)の認可要件(30, 31条)といった、学校の設置者として満たすべき資質に関する規定、②収益事業に関する規定(26条。詳細は文科省ウェブサイト)、③私学助成に関する規定(59条)等があります。
学校法人に対する行政の監督
学校法人に対する行政の監督としては、以下があります。
各種認可(寄附行為の作成・変更に係る認可(30条、45条)、一部の事由によるに解散に係る認可(50条2項)、合併に係る認可(52条2項))
収益事業の停止命令(61条1項)
法令等違反に対する措置命令・解散命令(60条、62条)
補足:令和5年改正について
冒頭で述べたとおり、令和5年改正(2025年4月1日施行/一部経過措置あり)によって、私立学校法は大きく変わります。ただし、変更となるのは学校法人の組織・ガバナンスに関するルールであって、本noteで引用した各規定には、明示的に言及したものを除き、(若干の文言修正や条番号のずれはあるものの)基本的に変更はありません。
今回は令和5年改正の具体的な内容までは踏み込みません。改正の概要については、文科省資料のほか、法律事務所のニュースレター等をご覧ください。
私学助成
助成の種類
私立学校には様々な種類の助成がなされています。その基本的な根拠となるのが、私立学校振興助成法です。
経常的経費の補助に関しては、大学・高専について4条、その他の学校について9条が定めています。4条1項は「2分の1以内」としていますが、例外もあります(7条)。
私立大学・高専に対する経常的経費の補助は、日本私立学校振興・共済事業団を通じて間接的に行われます(11条、日本私立学校振興・共済事業団法23条1項1号)。その金額規模については事業団ウェブサイトをご覧ください。
その他の助成としては、学資の貸与事業のための貸付け等(8条)があるほか、他の法律においても個別の定めがあります(産業教育振興法、理科教育振興法、教科書無償措置法等)。
また、あらゆる私学助成の根拠となる包括的な規定として、10条があります。
私立学校振興助成法に基づく行政の監督
私立学校振興助成法に基づく行政の監督には、助成を受ける学校法人への①報告徴収・質問検査権、②収容定員超過の是正命令、③予算の変更勧告、④役員の解職勧告があります(12条)。
私学助成と憲法89条
私立学校に対する各種の助成制度が憲法89条の後段に反しないかは、伝統的な論点となっています。
憲法学説上は反対する見解もありますが、私立学校法・私立学校振興助成法に基づく各種監督権限を根拠に、私立学校は「公の支配に属」しており、したがって私学助成は憲法89条に反しないとするのが行政解釈・学説上の多数説となっています。
私学助成と「公の支配」の関係は上記のとおり決着しているといって良いように思いますが、フリースクール等の「私立学校」にあたらない教育施設に対する助成の可否は未だ論点として残っています(幼児教室への助成を認めた裁判例として、東京高裁平成2年1月29日高民集43巻1号1頁)。
いくつかの自治体では、フリースクールの利用者に補助金を支給していますが、フリースクールの設置者に対してではなく、利用者に直接支給するかたちとしているのは、上記の論点を回避する目的もあるように思われます。
おわりに
長くなりましたが、今回は以上です。
次回は、教員の身分・待遇に関する法律を取り上げます。