前回のnoteで述べたとおり、公立学校の管理は教育委員会が行いますが、これについては地方教育行政の組織及び運営に関する法律(「地教行法」と略します。)が詳しい内容を定めています。
教育委員会とは
教育委員会は、地方公共団体の執行機関の1つであり、都道府県レベルと市町村レベルのそれぞれに存在します。
執行機関とは、議決機関としての議会に対して行政事務を管理執行する機関であって、自ら地方公共団体の意思を決定し外部に表示する権限を有するものを指し、地方公共団体の首長が担うこともありますが、教育委員会のように、政治的中立性等の観点から首長とは独立した委員会が担う場合もあります(※)。
※ 地方自治法138条の4第1項、宇賀克也『地方自治法概説(第10版)』(有斐閣、2023)313, 340頁
教育委員会は、教育長及び教育委員(原則4名)から構成される組織であり、別途事務局が設置されています(地教行法3条、17条。詳細は文科省ウェブサイト)。
教育委員会の職務権限
教育委員会の職務権限は21条のとおりであり、公立学校(大学及び幼保連携型認定こども園を除く。22条1, 2号、32条)に関する事務は基本的に所管事項とされています。
教育財産の取得や処分、契約の締結、予算の執行については首長の権限とされていますが(22条4-6号)、実際には首長から教育委員会事務局職員に権限の委任がされたり、事務の補助執行というかたちにして、当該事務局職員において処理する場合が多いようです(※)。
※ 伊藤卓己『自治体の教育委員会職員になったら読む本』(学陽書房、2022)28頁
また、教育委員会は、法令又は条例に反しない範囲で、教育委員会規則を制定することができます(15条)。
教育委員会規則のうち、公立学校の運営にとって重要なのが33条の教育委員会規則です(いわゆる学校管理規則。千代田区の例はこちら)。
教育委員会は公立学校の管理権を有していますが、学校の自主的な運営も尊重する必要があることから、両者を調和させるために学校管理規則が定められています。すなわち、教育委員会としては予め学校管理規則を定めておいて、その枠内で各学校に自主的な運営を行わせる仕組みになっています(※)。
とはいえ、教育委員会は、職務上の上司として、必要に応じて校長・教員に対する職務命令を発することができます(県費負担教職員については市町村教育委員会。43条2項)。
※ 前掲鈴木編388頁、日本教育法学会編『教育法の現代的争点』(法律文化社、2014)134頁
文科省と教育委員会の関係
普通地方公共団体が行う事務については、自主性尊重の観点から、法律又はこれに基づく政令によらなければ、国又は都道府県の関与を受けません(地方自治法245条の2)。地方教育行政における文科省の関与に関する法律の定めとして、以下があります。
教育事務に係る都道府県・市町村への指導・助言・援助(48条1項)
上記指導等に係る都道府県教育委員会への指示(同3項)
法令違反等の是正要求(49条、地方自治法245条の5)
法令違反等の是正指示(50条、地方自治法245条の7)
技術的助言及び勧告(地方自治法245条の4)
関与の各種類型のうち、指導・助言・援助が法的拘束力を持たないのに対し、指示・是正要求・是正指示は法的拘束力を持ちます(前掲宇賀449頁以下)。
昨今、いじめや不登校等の様々なトピックについて、文科省が都道府県教育委員会宛てに通知を発出していますが、これらは上記の類型のうち上2つのいずれかに該当するのではないかと思います。
ただし、いずれにしても市町村教育委員会になされるのは法的拘束力のない指導・助言・援助となるため、市町村がこれに従う「義務」まではないことになります。
県費負担教職員制度
地教行法は、教育委員会制度のほか、「県費負担教職員」の人事についても特別な定めを置いています(詳細は文科省資料)。
公立学校の教職員の給与は設置者である地方公共団体が負担するのが原則ですが(学校教育法5条)、市町村によって財政基盤は大きく異なるところ、これによって義務教育の水準に地域差が出てしまうことを避けるべく、政令指定都市以外の市町村立の小学校、中学校、義務教育学校、中等教育学校の前期課程、特別支援学校の教職員の給与については、例外的に都道府県が負担することとされています(市町村立学校職員給与負担法第1条)。同様に、政令指定都市以外の市町村立高等学校の定時制課程の教員の給与も都道府県の負担とされています。
「県費負担教職員」とは、上記制度によって都道府県が給与を負担する市町村立学校の教職員のことをいい、給与を負担する都道府県が任命権を有するものの、市町村が人事の内申を行い、服務の監督も市町村教育委員会で行います(37条以下)。ただし、県費負担教職員の給与、勤務時間その他の勤務条件については、都道府県の条例で定めることとされています(42条)。
上記のとおり、政令指定都市は県費負担教職員制度の対象外とされていることには留意が必要です。
おわりに
次回は、私立学校に関する法律を取り上げます。