【感想】姫乃たま『アイドル病 それでもヤメない29の理由』+大木亜希子『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』

 姫乃たまの新しい本が出るということで迷わず発売日に購入し、今日読んだ。すると以前買ったまま放置していた大木亜希子『アイドル、やめました。』に連想が及んだので勢いで読んだ。両方を読み終わってから気づいたが、なんと対照的なタイトルであることだろう。でもどちらの本にもおおむね同じようなことが書かれていたような気がする。いやもちろん当然ながら、これら二つの本の中で取り上げられているアイドルや元アイドルたちは、その生い立ち・経歴・現在の活動に至るまでそれはもうバラバラであり多様である。しかしながら、随所で同じようなことが語られている、書き記されている、というような気もしたのだった。そのことについて少し書いておきたい。

 改めてそれぞれの本の簡単な紹介を。『アイドル病 それでもヤメない29の理由』は元地下アイドルでありライターの姫乃たまが、28人もの地下アイドルたちに行ったインタビューを基に書かれた連載記事が一冊になったものだ。28人だと数が合わないとおもわれるだろうが、それは29つ目のエピソードが、著者である姫乃自身のものであるからだ。「はじめに」にも書かれている通り、この『アイドル病』は前著『職業としての地下アイドル』で行われたアンケート調査を、個人のエピソードによって補完する著作だと言えるだろう。

 『アイドル、やめました。 AKB48のセカンドキャリア』は、元SDN48のメンバーであるライターの大木亜希子が、48系列グループに所属していた人たちにインタビューを行い、その後の「セカンドキャリア」に迫った一冊だ。発売前後には、改めてアイドルの「セカンドキャリア」問題に一石を投じる著作として、かなり色々なところで言及されていた記憶がある。

 改めて両者について確認してみると、前者は基本的にアイドルを続けている人たちを扱っているのに対し、後者はアイドルを辞めた人たちのことを扱っている。また、前者で登場するアイドルたちは「地下アイドル」と呼ばれるような非常に小規模な活動を行う人たちであるのに対し、後者で登場する元アイドルたちは48系列のグループで活動していた元「地上アイドル」たちであるという違いもある。それでもなお、共通点があるように感じた。それを説明するには、まず『アイドル病』の内容についてもう少し詳しく確認をしておく必要がある。

 『アイドル病』の副題は「それでもヤメない29の理由」となっている。普通に考えれば、地下アイドルをやめない理由のことだろうと予想するはずだ。しかし事はもう少し込み入っている。そもそも著者自身のエピソードが「理由29」として本書の最後を飾っているが、その姫乃はすでに地下アイドルを引退している。ということは、「ヤメない29の理由」とは必ずしも地下アイドルをやめない理由のことだけを指すのではないことになる。では、本書で取り上げられている29人は一体なにを「ヤッて」いるのだろうか。

 多少例外もあるだろうことを承知の上で、より普遍的な回答を暫定的に与えておきたい。それはすなわち、「アイドル活動を通じて自覚された自らの欲望に従う活動をやっている」というものだ。もちろん、そうした欲望をまだ見つけ出せていないのではないか、とおもわれる事例も紹介されていた。しかしそうだとしても、そうした欲望を求めて悪戦苦闘するプロセスが過度に悲観的でも楽観的でもない筆致で記されていたことは間違いがない。

 「アイドル活動を通じて自覚された自らの欲望に従う活動をやっている」。これは、『アイドル、やめました。』における元アイドルたちの現在にもおおむね当てはまるようにおもう。もちろん、そこに至るまでのルートは様々だった。もともと夢があったが一旦アイドル活動をしたことで余計にその夢への気持ちが高まった人もいれば、何がしたいのかわからなかったがアイドル活動する中でそれを見出しいていったという人もいた。私はアイドル時代の経験が今に生かされているという話よりも、アイドル時代の試行錯誤を通じて自らの欲望に忠実になっていくというプロセスにより心を惹かれた。

 なぜこのようなプロセスがしばしば生じるのだろうか。もちろん私はアイドル活動の経験が無いから完璧にはわからないが推測はできる。アイドルは(規模の違いはあれど)不特定多数のファンからの注目を集める。アイドルになるまではたいてい何者でもない普通の人間だったにもかかわらずだ。そして自分以外のアイドルはたくさんいる。このことは、グループアイドルであれソロアイドルであれ変わらない。その中で何者でもないこの私に何ができるのか。ここが出発点になるのではないか。

 この私にしかできないこと、それは、この私がありったけの力を注ぐことができること、すなわち、他の人がどうだとか世間的にはどうだとかいったことは一旦置いておいて、自分が素直に欲望することができる対象なのではないか。もちろん素直に欲望するのは非常に難しい。どうしても恥ずかしさのような様々な障害が介入してくることだろう。でもアイドルには「応援してくれるファンのためにやる」という強力な口実が存在するから、そうした障害を取り除くことが比較的容易になるだろう。これは一人では絶対にできないことだ。

 以上の推測は、あくまでラフスケッチに過ぎない。部外者が考察するには、もっと資料が必要だろう。でもあまりその点については心配していない。姫乃や大木のようにアイドル活動を通じて、文筆という自らの欲望を見出すアイドルは今後も出現してくるはずだし、現に出現してきているからだ。彼ら/彼女たちはたとえアイドルをやめたとしても、それでも書くことをやめないだろう。

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