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【紙の本で読むべき名作選#12】ボルヘスの「夢の本」で電子書籍を越えてゆけ!

「本が好き」な人間ならばきっと「ハマるはず」の小説家が、アルゼンチンのボルヘス。今回はそのボルヘスの作品から、特に「入門者向き」の一冊を紹介します。

ボルヘスは「無限にページが増えていく本を発見した男の話」とか、「地図に存在しない地名が載っている百科事典を発見した男の話」とか、本好きならば「わかる!」ファンタジーをたくさん書いた御方。ただし日本ではイマイチ、知名度が盛り上がらない。というのもボルヘス氏の小説は恐ろしく哲学的で形而上学的、つまりとても難解なのです

そこで今回は、年季の入ったボルヘスファンでもある私に、「入門者向きのボルヘス」として、『夢の本』を紹介させてください!!

ジャンルとしては「名作文学の引用集(アンソロジー集)」というのでしょうか。

古今東西のさまざまな文学作品に出てくる「夢が印象的な名場面」を、ボルヘスが選び抜き引用した、読んでいるうちにどんどん夢と現実の境界があやふやになってくる不思議な本

『不思議の国のアリス』や『旧約聖書』などからの引用集というにはとどまらず、その合間合間に、さりげなくボルヘス自身が創作した「夢に関するエッセイ」も挟み込まれてくるので、「どこまでが過去の文学からの引用で、どこからがボルヘス自身の文章なのかもだんだん曖昧になってくる」という二重の境界侵犯が効果絶大です。

ちょっと例をあげると、

(今、木陰で眠っている王様が)「目を覚ましたら、あんたはどうなると思う?」
「わからないわ」
「消えちまうのさ。あんたは王様の夢の中の登場人物。だから、王様が目を覚ましたら、あんたはろうそくのように消えてしまうのさ」

という、『鏡の国のアリス』の印象的な名場面のセリフが引用されたと思いきや、

私は子供の頃、虎に熱烈にあこがれていた。
ところが私が、虎をなんとか夢に見ようと努力しても、私の夢の中には望み通りの虎が、なかなか現れてくれない!
剥製の虎が出てきたり、弱弱しい姿の虎が出てきたり、犬や鳥と混じっている奇妙な姿で出てきたりしてしまうのだ。

という印象的な「引用」が出てきたので、「これはどんな作家の作品からの引用だろう?」と引用元の注を見ると、「ホルヘ・ルイス・ボルヘス」とある。作者の創作じゃないか

ぱらぱらとめくって読んでいるだけでも、こんなふうにいちいち幻惑され、心地よく不思議な世界に誘われてしまう本、それがこの、『夢の本』です。難解なものではないです。とても風変わりな読後感には誘われますが。

ボルヘス入門にぴったりであると思う上に、「ボルヘスの作品の中で一冊だけ持っておきたい」というのなら、この本を選んで書棚に入れておくのがよいのではないか、と思う次第なのでした。オススメです!

△本記事はコチラの「紙の本で読んでほしい名作選」マガジンの一記事となります

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