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#4 アタマが感情をこじらせている①

加藤隆行さんの最新刊『「会社行きたくない」気持ちがゆるゆるほどける本』の発売を記念して、前作『「また怒ってしまった」と悔いてきた僕が無敵になった理由』の一部を無料公開します。(酒井)

(前回のお話はコチラから)

カラダとアタマが感情を生み出す

感情を肯定し、味方にしていくために、今回はちょっとだけ専門的な話に触れていきます。

人の脳は、大きく分けると3層の構造をしています。
いちばん深い内側の部分から「爬虫類脳(脳幹)」⇒「哺乳類脳(大脳辺縁系)」⇒「人間脳(大脳新皮質)」とよばれており、生物進化の過程でこの順番で出来上がった、といわれています。

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いちばん内側の「爬虫類脳」はおもに、人間の生存にかかわる自律神経の調整や、心臓や内臓のコントロール、反射的動作といった「カラダ」に近い、命を支える本能的な部分を担っています。トカゲなどの生物は、このレベルまでの脳をもっています。
真ん中の「哺乳類脳」は高度な身体運動制御などを担います。そして本書の主題である「感情」もここから発生しています。
外側の「人間脳」はおもに、思考や理性といった「アタマ」の部分を担っています。

感情をつくり出す中枢といわれているのは、真ん中の哺乳類脳にある「扁桃体」です。アーモンド大の小さな器官で、左右にひとつずつ存在します。
扁桃体は、なにかを見た、聞いた、触ったといった「カラダ」から送られてくるさまざまな情報をもとに、過去の経験や記憶なども参照することで、今この状況は「快/安全」か、「不快/危険」かを判断します。それがノルアドレナリン、アドレナリンなど脳内ホルモンの分泌に影響を与え、身体や思考をコントロールしていきます。
さらに、その人の個別の価値観、信念などの「アタマ(思考)」がミックスされることで感情が生まれます。
この「カラダ」と「アタマ」の連携はほぼ同時進行で、瞬時に行われます。

感情の中枢「扁桃体」は、脳の中の「カラダ(本能)」と「アタマ(思考)」の真ん中の位置にあり、それぞれから影響を受け、それぞれに影響を与える、という仕組みになっています。

ちょっと難しいので、細かいことは無視して結構です。ここでは、
「感情は『カラダ』と『アタマ』の交差点」
とだけ覚えてください。

感情とはカラダで「感じる」もの

感情とは「感じる」もので、「考える」ものではありません。実際に感情は「カラダの感覚」で感じています。
日本語とはおもしろいもので、次のように感情と「カラダ」がつながった表現がたくさんあります。

・怒り……が立つ、に据えかねる、の虫が治まらない、はらわたが煮えくり返る()、に血が上る、怒天を衝つ く
・恐れ……血の気が引く()、が冷たくなる、が震える、背筋が凍る、を冷やす
・不安……が痛い、に穴が開く、がザワザワ・モヤモヤする
・焦り……冷やが出る、がドキドキする、が渇く
・悲しみ……が締めつけられる、が痛む
・嫌悪……苦虫を噛み潰したよう(口腔)、がムカムカする
・楽しみ……がワクワクする、が躍る
・笑い……を抱える

これらのほとんどは、ただの比喩ではなく、実際に「カラダ」に反応が出ることがわかっています。昔の日本人は、このような感覚をしっかり「カラダ」でキャッチして、コトバにしていたのです。

アナタも不快なときの身体状態を少し思い出してみれば、喉の詰まりや胸のザワザワ感、胃腸の違和感・不快感などの感覚があることがわかるはずです。不安でストレスが続くと胃に穴が開くように、感情は「カラダ」に強い影響を与えています。

このように、「感覚(五感)」と「感情」は密接につながっており、切り離せないものなのです。

感情はカラダの中心線に表れる

原始の時代、「生物」とよべるようなものがこの世に生まれたころ、その形態は「管」の形をした腸だけの生物だったといわれています。
当時の生物は、腸だけで食物を取り込み、消化し、排泄をしていました。そして、腸だけで危険を察知したり、安全な方向を見つけたりしていたのです。つまり、腸だけですでに根源的な感覚(感情)をもっていました。これを内臓感覚とよびます。
やがて進化するにつれ、腸にさまざまな器官がつけ足されていきます。原始的な五感を担っていた部位が発達し、目、耳、鼻、舌などへと変化していきました。
筋肉を手に入れることで、いつしか遠くまで自由に移動できるようになり、さらに高度な活動を行うために、あとから脳が出来上がりました。脳はなくとも消化器官(腸)のない生物はいません。あくまでも脳(大脳)は後づけです。

前述の感情と「カラダ」がつながったコトバにも、胃腸に関するものが多いのは、原始的な感情を感じる部分が口から肛門までの「腸管」周辺にあることに関係しています。
そのため、感情のもととなる感覚(気分)は、おもに、口、喉、肺、心臓、横隔膜、胃、腸、生殖器などの内臓で感じているともいわれています。
また、感情をグッとこらえるときにはカラダを固めるため、筋肉に感情が残ることもあります。

このように、過去の記憶とも連携しながら、カラダが原始的な「感情(感覚)」をつくり出すとともに、「アタマ(思考)」が同時進行でその補助をすることで、より「複雑な感情」をつくり出します。その感情はまた「カラダ」の感覚にフィードバックされる、という順序になっています。
実際には、カラダとアタマ、感情と神経系はもっと複雑な関係ですが、このくらいの説明にとどめておきます。

感情はアタマだけでは抑えられない

感情はアタマとカラダの間にあります。そのため、「感情」を味方につけるためには、両方からのアプローチが必要となります。
そのアプローチは同時進行で行いますが、うまくいかないときは、「つねにカラダが先」と覚えてください。

アタマはいつも、なんでもわかったかのように“司令官”のような態度をしていますが、しょせんアタマは、カラダ全体から見れば器官の一部でしかありません。
でも、われわれは意外とそのことを忘れがちです。アタマの言うことばかりに従ってしまい、いつもカラダからの声をおろそかにしています。

カラダが【危険モード】で不安や恐れを“感じて”いたら、アタマは最悪の事態を想定し、物事を悲観的に”考え”、逃げるための手助けをするようにできています。
カラダが【危険モード】で怒りを“感じて”いたら、アタマは周囲を敵だと“考え”、攻撃するために相手の弱点ばかり(嫌な部分ばかり)を探し始めます。
カラダが【危険モード】で疲れを“感じて”いたら、アタマはなんでもめんどうくさいと“考え”ます。なぜなら、「休まなくてはいけない」とカラダが思っているからです。
一方、カラダが【安全モード】で安心を“感じて”いれば、アタマは物事を肯定的・希望的に“考える”であろうことは、感覚的に理解できるでしょう。

アタマの思考だけでカラダを抑えつけ、言うことを聞かせようとするのは大変です。
目の前に梅干しがあったなら、口の中に唾液が出てきてしまうのを、思考では止められないのと同じです。目の前の上司の言動に「ムカつく!」と憤りを“感じた”のなら、いかに「怒っちゃダメ! 落ち着け!」とアタマで“考えた”としても、それはムリなお話なのです。
感情はそもそも、思考で否定したり抑えつけたりするものではありません。

感情を否定し、感情に振り回されることで普段からイライラ・ザワザワしている人は、それを本やセミナーなどで学んだ知識や理屈(つまりアタマ)だけでなんとかしようとしては、撃沈を繰り返しています。
そうして感情に主導権を握られることで、どんどん自分の人生がコントロールできないものだと感じていきます。

だから、まずは「カラダ」の声を聴く。

カラダに出ているネガティブな感覚・感情を、「自分を生かそう、命を守ろうとしてくれているんだな」と、いちどそのまま受け止めて肯定してあげる。そのうえで、アタマの言っていることを吟味してみる。
カラダとアタマが反発し合っていると、人生はうまく流れていきません。カラダとアタマの足並みが揃っていると、人生はスルスルと流れていくようになります。

(連載第5回はコチラから)

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