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負けました。

僕は老人ホームで働いている。


僕の勤める老人ホームのおばあちゃま。

先日転倒して右手骨折。

骨折したことを忘れて普通にご飯は右手で食べているが、やはり一般的に、今は安静に固定して経過観察をしたいところ。

片手が使いにくくバランスが悪いのか、歩くときにふらつきもある。



骨折前から風呂嫌いで、特に羞恥心から入浴介助は拒否。

それでも、ずっと入らないわけにはいかないので、夜に一人で入ってもらっていた。

お風呂の準備だけして、案内して、途中外から声をかけて、なんとか入る時は入る、という感じ。


…もともと風呂嫌い。

…介助は拒否。

だけどもいまは右手を骨折している。流石に一人で入ってもらうには…。

でも夏場ということもあり、衛生面的にも、その方の価値を下げないためにも、入浴を全くしないわけにもいかない…


なんとか、昼間に見守りながら入浴いただきたい…と思っていた。


骨折から数回、職員さんに声をかけてもらっているが、入ったのは一回だけ。基本浴室にも行ってもらえない。

その時は、トイレに間に合わず汚してしまったので、嫌々仕方なく…という感じ。


骨折が落ち着くまでは、お風呂は見送りかな…と諦めていた。




昨日たまたま、職員さんの体調不良で援助に入り、たまたま僕にその方の入浴援助が回ってきた。


普段職員さんにお願いばかり。ここは僕の介護力の見せ所や!と、その方に入浴の声かけに向かった。

声かけ、ひざまずき、目を合わせて、少し触れる。意識をこちらに向けていただいて、声をかけていく。


今日は入浴の声かけに来た。

あなたが、一人で入りたいことはわかっている。

しかしいま、あなたは骨折をして不自由だ。

治るまでは安静にしてもらいたい。

しかし、この夏場、入浴しない日が続くと衛生的にも、臭いの面でも良くない。

ぼくは、あなたに不快な思いをして欲しくない。

僕に今日の入浴を手伝わせてもらえないだろうか。


正直に、全てを説明した。



すると。

『そこまでいうてくれるんやったら、わかった仕方ない。手伝ってくれるか?』と。


伝わった。



浴室へ向かう僕とその方をみた職員さん、

(やっぱねずみさんは、すげー。)

そんな眼差しを受けながら、

まだ僕は油断していなかった。




浴室のベンチに座る頃にはもうさっきの記憶はなく、

今から風呂に入る、ということがわかり、

断りが始まった。



想定内。



再度、同じ説明を一からする。


『わかった、仕方ない。』と。



伝わった。


上の服を脱いでもらう。



再度、忘れる。



想定内。




説明。



『いや、入らん。』





…むむ。話が変わってきた。



説明。




『もうええ、入らん。』




むむむ。



説明。




『わかった。』


よし。


『そこまで言うんやったら、わてと結婚してくれるか?裸見せるんやから、それぐらいの覚悟してもらわんと困る』





冗談…

ではなさそうな、力のある眼差し。




…説明…。



『やったら入らん。』




これ、わかっててからかわれてるんじゃないのか…?


女性職員さんを内線で呼び、

昨日は入浴いただけました。




やっぱり、

年の功には、勝てん。


負けました。








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