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なに慣れてんねん。

僕は老人ホームで働いている。


介護する上で大事な考えの一つに、
社会的役割の喪失、というものがある。


別に高齢じゃなくても
誰でもそうだと思うけど、

その命を意味あるもの、
彩りを与えるものが役割。

どんな些細なことだっていい、
自分がいることに
意味を感じることができれば幸せ。


仕事するのも役割、
お父さんも役割、
友達も、
コミュニティに属するのも、
人間の社会的役割。

難しい響きだけども、
Mr.Childrenの【彩り】
を思い浮かべていただければ問題なし。



じゃあ逆に…と言う話。


高齢になると、
社会的役割が薄れていく。

仕事を終えたり、
周りの友達が亡くなったり
伴侶に先立たれたり。

身体能力が、認知力が低下していく。

これは自然の流れ。

その中で、もしかしたら
自宅で家で暮らせなくなるかもしれない。

そう、
ウチみたいな老人ホームに
入る必要が出てくることも、ある。




ホームは安全であり便利。
火の不始末とかまずないし、
バリアフリーで手すりがいっぱいあって

炊事洗濯家事親父
生活にかかることを職員がほぼ行う。
#親父



すると、
より動かなくなる。
より考えなくなる。


人間関係という役割を疎遠にされ、
さらには自分でできていたことさえ奪う。


怖い言い方になるけども、
間違いなく、老人ホームの一面であるとは思う。
#一面ね

老人ホームにも長所短所があるということ。


その中でも、
人間らしく生きてもらえるように
考えているつもり

そう、つもり。
今日、誠に申し訳ないことに気づいた。






入居者さんの中で、
ご夫婦で入居されている方がある。


奥さんの方が認知症状が強く、
最近は食事の仕方まで忘れてしまっていた。

ご主人は食べて欲しいから世話を焼く。
奥さんは混乱して余計止まる。

ご主人怒る。
奥さん困る。

怒る。
困る。

みんなが困る。



食事に集中してもらうため、
それまでは食堂で
ご主人と一緒に食べてもらっていたが、
奥さんにはお部屋で職員さんと
二人きりで食べてもらうことにしていた。


認知症状がある方は、
周囲に雑音や人の動きなどの刺激が多すぎると
集中力が続かない方がいる。


部屋で一人で食べていただくと、
奥さんの食事は抜群に進むようになった。



代わりに、
ご主人の認知症状が進行した。


奥さんの面倒を見る、という役割を
僕たちが奪っていたためだった。


この辺は前にも記事に書いた。

その時はすぐに、
ご主人の役割を維持できるよう、
二人で過ごす時間を
意識して設定することにした。





そこにきて、コロナ。

うちは陽性者を出した施設なので、
感染対応はシビアに行った。




入居者さんには、
全員部屋で食事をとってもらうことになり、
ご夫婦の一緒にいていただく時間もなくなった。






ようやく施設内ではコロナが落ち着き、
感染対応終了後の日常に慣れてきていた。

食事も食堂で食べていただけるようになった。
ただ奥さんは前まで通りお部屋での食事。
奥さんは落ち着いていた。



はぁよかったよかった。








ここ最近、ご主人が昼夜問わず
奥さんの部屋の鍵をかけるように、と
頻回に言うようになった。


朝9時ぐらいに、
「もう今寝かしつけましてん。」
「鍵落としといてもらえますか。」

「いっつもねぇ…
うちの部屋におったと思うんやけど、
最近全然出てきませんねん」

「多分しんどいんやと思います。」
「あったかくしときましたんで、鍵お願いします」

部屋には
衣類と布団でぐるぐる巻の奥さん。


ご主人をバカにするつもりは一切ない。
シンプルにそれは愛情だと理解しているので。





問題は、

ごめんなさい、僕らやね。
なにを慣れてんねん。



前気づいたはずだったのに、
またやってしまった。


コロナで一緒に過ごす時間が無くなったから、
役割をまた奪ったから、

いつもいた奥さんがいないのが心配で、
自分が奥さんの世話をした後は
鍵をかけて誰も入れなくしたいんだと思う。





見方によっては、ご主人には
一切奥さんの援助をしてもらわないほうが楽。

ぐるぐる巻きの奥さんをほどかなくてもいいし、
何回も鍵をかけたり開けたりしなくてもいいし。



でも、僕らって
楽するために介護やってるわけじゃない。

その人たちの社会的役割、
彩りを失わせないために介護はあると思う。



ご主人ごめんなさい。
一緒に過ごす時間を考えます。



…慣れって怖いなぁ。























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