都市とみどりと私たちの「いい関係」ってなんだろう? 「388 FOREST」が進める、いのちのバトンタッチ
「まちのみどり」と聞いて、どんな風景が思い浮かびますか? 公園の植栽、まちのシンボルツリー、屋上庭園、民家の花々、神社の木々。わたしたちの暮らす街には、風景を彩るさまざまな「みどり」が存在しています。
多様な街路樹の役割
もちろん「街路樹」もそのひとつ。普段何気なく目にする街路樹ですが、実はさまざまな役割や機能を担っています。
日差しを遮ったり、排気ガスや騒音をやわらげたり。木陰でちょっとしたピクニックができたり、こどもたちの遊び場になっていたり。街路樹が昆虫や鳥たちを呼び寄せ、新たな生態系を生み出していたり。火事の延焼防止や歩道と車道の分離を示すなどのガードレール的機能まで。
街路樹にはそれぞれの地域環境の目的に合わせた樹木が選定され、自治体や住民の手によって維持管理されています。また、そこには「樹木医」という専門家も関わり、「木のお医者さん」として状態を診断し、老木化や腐朽病害等の早期発見を目指し、事故の未然防止や他の生態系への影響を最小限に止めるための治療や保護に務めています。特に、自動車の排気ガスや化学物質に触れることの多い大都市の街路樹の保全のためには、しっかりとしたメンテナンスが重要になります。
ササハタハツと「まちのみどり」のこれから
玉川上水旧水路の緑道再整備を機に始まったササハタハツファームにとっても、「まちのみどり」との関係は欠かせないテーマです。
現在の緑道には、3メートル以上の木だけでも1,235本植えられています。その他にも、いろいろな形や色、高さの植物があり、地域コミュニティと行政が一緒になり街の風景を育て上げてきました。
そんな緑道の歴史においてはこれまでも少しずつ木々の世代交代がありましたが、今回全体の約2割が伐採されることになりました。
引退する樹木のデジタルマップを公開
伐採の理由は木によって異なります。枯れた枝の落下が心配される幹の樹皮剥離、木が枯れているサインである「子実体」が確認されるなど、樹木医がそれぞれに状態を診断し、伐採が決定されました。
これを機に立ち上がったのが、住民中心のプロジェクト「388 FOREST」。「Dear Tree Map」という特設ウェブサイトを公開し、伐採される理由と樹木の位置をデジタルマップで公開しています。
デジタルマップ上で樹木の名前をクリックすると、それぞれの伐採理由や基本情報、位置の詳細を確認できます。テキストは渋谷区から提供された樹木医の診断結果をもとに作成されています。
今回はそんな「388 FOREST」の推進メンバーのみなさんと、渋谷区公園課のみなさんに今回の取り組みについてお話を伺いました。
・ありがとうをつなぐプロジェクトのメンバー 海上亜耶さん
・初台ハーベストコミュニティパーク 古川はる香さん
・Dear Tree Project 石川由佳子さん
・せせらぎ冒険遊び場 小水映さん
・渋谷区公園課 長家宏成さん、﨑山真由さん
「388 FOREST」が始まったきっかけは、渋谷区公園課のみなさんが同区まちづくり推進部の真柴裕哉さんに何かできないかと相談を持ちかけたことがきっかけだったそう。
樹木へのパーソナルな思い
長家さん「伐採の理由や経緯説明を住民の方々へ行うと、みなさんの緑道への強い思いを改めて切実に感じていました。こどもの頃の大切な思い出、緑道の心地よさ、生活に欠かせない居場所であること。そんな思いを受け取り、渋谷区としてもより分かりやすい形で経緯や目的を伝えたり、住民の皆さんと双方向でコミュニケーションを取れるような活動が必要だと考えていました」
ササハタハツエリアビジョンにおいても、「自然環境」は大きなテーマです。すでに緑道の自然を活かした取り組みはさまざまあり、相談を受けた真柴さんがササハピ認定プロジェクト周辺の方々に声をかけて始まったのが今回のプロジェクトでした。
まずメンバーの方々は、「まちのみどり」への住民ひとりひとりのパーソナルな思いや体験に目を向けました。
石川さん「以前、都内の別の場所の伐採現場に立ち会った際、偶然、木に抱きつくおばあちゃんを見かけたんです。声をかけてみたら、小さい頃、木が太陽の暑さから自分を守ってくれた思い出をたくさん聞かせてくれて。まちの樹木がこんなにもパーソナルな体験を提供していることに気付かされ、きっとそれぞれのまちにこういう方がたくさんいることも想像できました」
そこで「Dear Tree Map」のウェブサイトでは、伐採される樹木へのメッセージを投稿できるフォームが用意されています。いただいたメッセージは「Dear Tree Map」のウェブサイトや、ササハタハツまちラボのホームページで公開される予定です。
海上さん「緑道は里山など本当の意味での自然ではなく、その昔、人間の手でつくられた”自然”です。いくら維持管理を徹底していても、木も命なので、健康上の理由で伐採しなければいけないのは仕方ないと思っています。ただ、ただ伐採してさようならだと悲しい。せめてみんなで今までの感謝の気持ちを込めて手を合わせ、思い出を語り合うようなきっかけをつくりたいと思ったんです」
行政と住民の繋ぎ目としての取り組みへ
さらに388 FORESTでは、伐採後の樹木の活用についても住民のみなさんと一緒に検討を進めていきたいと言います。
小水さん「なにごとも、プロセスが分からないのはよくありません。みんなに愛されている緑道だからこそ、プロセスを明確に開示することはとても大事なことだと思います。その上で、我々住民は、文句だけを言うのではなく、しっかり意見をいい、必要に応じてプロセスそのものに関わる。そんな行動が必要だと思います。その意味で、388 FORESTが住民のみなさんが関わるきっかけになるといいなと考えています。行政対住民という構図ではなく、お互いが意見を交わせあえる、その間や余白が大切です」
この4月には、住民のみなさんに樹木の管理や整備についての基礎的な知識を伝える体験型ワークショップを開催。あって当たり前の存在ではなく、私たち住民もその維持管理にも思いを馳せ、自分にできることは何だろう?と想像するきっかけを今後も届けていきたいと388 FORESTのみなさんは話します。
古川さん「行政の決めたことに対してパーソナルな思いを蔑ろにされる感覚になるのはやっぱり残念なこと。388 FORESTは、樹木医など専門家チームの知見とデザインの力を合わせ、個人個人の想いを昇華しながら未来について考えるプロジェクトとして意義があったと感じています。また、樹木自体は、伐採されても使い道は無限大です。丸太や切り株は椅子にもこどもたちの遊具にもなるし、工作の材料にもなる。住民のみなさんと一緒にまちのためになる楽しいアイデアを交換しあっていきたいですね」
暑い日も寒い日も、いつだって変わらず寄り添ってくれる“まちのみどり”は、時にとても個人的で大切な体験を与えてくれます。自分で種を購入し自宅で育てる植物の愛で方とは、また少し異なる感覚なのではないでしょうか。公共空間にある「みんなのもの」だからこそできる関わり方、大切にする方法がきっとあるはず。388 FORESTは、そんなまちのことに私たちが関わる余白をデザインするプロジェクトでもあります。
「388 FORESTでは、現在企画運営メンバーを募集中です。このプロジェクトは、地域の多様な方々が関わることでより意味の生まれる活動です。樹木をきっかけに対話を深めながら発展させていきたいと思っています。取り組みを見て興味をお持ちになった方は、ぜひSNSやウェブサイトからご連絡をいただけたら嬉しいです」と渋谷区公園課の崎山さんは話します。ぜひこちらのウェブサイトやSNSをご覧になってみてくださいね!
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