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年末の寂しさを埋めるように

12月19日、スペインの歌手でヴォーカル・グループIL DIVOのリーダー、カルロス・マリンさんが亡くなった。53歳。コロナに感染していたとのこと。

IL DIVOは、昨年の今頃に亡くなった私の祖母が大好きなグループだった。世間がアナ雪ブームだった頃、祖父母はIL DIVOに着々とハマっていた。学校から帰ると大きな音でコンサートのDVDが流れており、「音量下げないと近所迷惑」と母に注意される祖母をよく見ていた。

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祖母の訃報を受けた次の日のバイトは、悲しみを紛らわすための淡々なる作業だった。

笑顔で接客しても、ひとりの時間が少しでもあると泣きそうになった。

「いつも通りだよ」という顔で出勤したら、別に周りもいつも通りだった。

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昨年末はお葬式等のため早めに帰省し、約1か月間故郷で時を過ごした。

心の痛みがとれないまま、祖母の行きつけだった美容院で着付けをしてもらい会場に向かった成人式の日はある意味一生忘れることはないだろう。そういえばこの日は祖父が初めて車を逆走させてただただ心臓に悪かった。

本来ひとりの時間が好きで、それがないと生きていけないくらいだったのに、誰かがいないと泣き崩れそうだった。

それでも、ひとりにならないと気持ちは落ち着かなかったので余計に苦しかった。

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1月も中旬にさしかかった頃、故郷から戻りバイトに行くと、1か月ぶりに会った同期の子たちから「あけおめ~!」と言われた。

この年は私にとって初めての「おめでたくない」年始だった。気まずい。

ああ、私も前に同じようなことやっちゃってたのかなあ。

もうみんな年賀状も喪中はがきも送らないもんね。知る由もない。

小学生の時は、学校の友達やら親戚やらに手書きで絵を描いて年賀状を送っていた。友達が増えると送り合う年賀状の量も増えて嬉しかったなあ。

年末ってこんなに寂しい季節じゃなかったのに。

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「身近な人が突然亡くなる」という出来事は、私の中の多くを変えた。

何事も自分ゴトにならないと、本当の意味で何かを感じることはできないのかもしれない。

何の変化も起こらない、つまらない楽園とはもうとっくにお別れをして、私はこれからも変わっていく。

今はまだ、ただこの年末の寂しさを埋めるように、息をしているだけだけど。

天国で晴れやかな舞台に立つカルロスの歌声を、祖母は静かな笑顔で聴いているのだろうな。


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