抽象的思考のススメ 考え方と注意点
以前も記したことですが、よく「具体的に」という言葉を聞きます。しかしこの時、多くの人が求めているのは具体例だということが多く感じられます。
以前も具体的と具体例の違いを、辞書の説明から述べましたが、今回は少し違った視点から考えたいと思います。
具体的と具体例については で記しました。
具体的な説明は、実は多くの人にとってまあまあ抽象的です。しかし抽象度が上がるほと包括的な説明になります。言いかえれば具体度が上がるほと、限られた内容しか説明できません。
要するに「具体的に」という説明を求める人ほど、理解の範囲が狭いことになりますしどれだけ頑張って説明しても、その人の理解の範囲に届かなければ理解や合意を得られません。
極論を言うなら、「具体的に」という要望は「自分の聞きたい言葉」と同義語なのかもしれません。
さてそれでは抽象的に考えるとはどういうことなのでしょうか。
1.抽象的
[1] いくつかの事物に共通なものを抜き出して、それを一般化して考えるさま。「本質を―にとらえる」
[2] 頭の中だけで考えていて、具体性に欠けるさま。「―で、わかりにくい文章 」
(大辞泉)
抽象的というと[2]のように解りにくいイメージのようですが、本来は[1]の意味の、普遍的な要件を考えることを指します。もう少し解りやすく説明すると、「そもそもどういうことなの」とか「本質的にどういったことが言えるのか」という考え方です。
・抽象的説明
それでは抽象的な説明とは、具体的にはどういったものなのでしょうか?
最も良い例として辞書の説明があります。
例え辞書では、「犬」を以下のように説明しています。
食肉目イヌ科の哺乳類。嗅覚・聴覚が鋭く、古くから猟犬・番犬・牧畜犬などとして家畜化。多くの品種がつくられ、大きさや体形、毛色などはさまざま。警察犬・軍用犬・盲導犬・競走犬・愛玩犬など用途は広い。
(大辞泉)
この中の冒頭から~さまざま、までが正しく抽象的な説明です。警察犬以降は用途としての具体的な説明になります。さらに犬種などは具体例になります。
つまり抽象的な説明とは、一般的な知識を持つ人が誰もが同じ答えにたどり着く説明です。具体的な説明や具体例は、さらに連想しやすくするためのものです。
2.抽象的思考による考え方
それでは実社会ではどのようにして抽象的思考を活用するのでしょうか。
ここからは僕が扱った企業の実例を参考にして考えたいと思います。
・経営分析における抽象的思考
これはあるメーカーからの話で、小売店から受けた相談への対応に困っているという話でした。
ある古い地方都市の引き出物や贈答品などを扱う会社が、新しく出店したロードサイド店舗についての内容で、僕はいくつかの質問の後、すぐに営業方針の問題点を指摘しました。
この事例のような古い地方都市、特に歴史のある町には、古くからのお店が多くあります。例のような贈答品のお店をはじめ、仏壇店や衣料品などの古い会社です。さらに言うなら、実はお寿司やさんや洋食店などもありますから、静かな小旅行にはオススメです。
さて、これらの店は多くの場合、主要駅と旧中心地、例えばお城や大きな神社仏閣の間に立地することが多いです。特に歴史のある町ではその地域は古い建物が多く、文化や史跡も見られ伝統や風習が残っています。
しかし1980年代以降、都市の発展と共に、地形にもよりますが、例えば駅の反対側や高速道路に近い場所に工場やショッピングモールなどが進出し、新な町を形成していきました。
次第に町の中心はそちらに移り、新しい住人やコミュニティが形成され、古い町は発展の外に置かれます。
ロードサイド店舗は人の流れを考えると、新しい地域への国道などに立地しますから、住んでいる人も新しく古い風習には馴染みません。
こうした地域に高級品を置いても、そもそも文化がないのですからうまくいくはずがありません。
そのため僕は伝統を、新な価値のある習慣やイベントとするようなショールーム化を提案しました。
3.抽象的思考の限界
ここまで抽象的思考について記しましたが、この考え方にも欠点はあります。
小説『舟を編む』 (三浦しをん,光文社,2015年)の中で、「右」について説明する話が出てきます。そこでは「一般的に箸を持つ方の手の側」「北に直面した時の東の方角」という説明がなされます。これは相対と絶対という問題です。つまり絶対的抽象性がない限り、不確実であったり、思い込みの抽象化になる危険性が高いということです。
これについて学術論文などの場合、相対的な意味で言葉を使うことはありません。もしその場合は脚注でどのような意味で言葉を使ったか示す義務があります。逆にこれがない場合、査読や書評会などで必ずなぜその言葉を使ったかを問われます。
しかし多くの文章などではそこまで考慮されていない場合があり、個人的見解による文章になっているものも少なくありません。
ですからロジカルシンキンングの講義では、言葉をどのような意味で使ったかを、しっかり考えながら訓練します。
ちなみに、先ほど挙げた企業の事例は、実は厳密には抽象的思考ではありません。絶対的抽象性(普遍性)もを持った理論で批判的思考によって考えたものです。
批判的思考については、また説明したいと思いますが、まずは抽象的思考の訓練から始めるとよいでしょう。
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