マーケティングとは2 売れないモノを作らないで下さい

最初に私事ですが、、、僕は博士号修得後、28歳の時に経営学部の教員になりました。本当に謙遜などではなく、恩師(高名な先生でした)のご助力や良いご縁と対門ぐ、奇跡的な幸運もあって大学に就職できました。そのため「新進気鋭」だとか「大先生の秘蔵っ子」などと言われ、とても困りました。

実際にその話をすると、両親や友人達、当時結婚したばかりの妻にまで爆笑されたものです。

しかしその甲斐あってか、ありがたいことに、講演などに及び頂いたり、企業や行政(町づくりなど)との共同作業といった経験をさせて頂きました。
今でも経営者の集まりなどでお話をさせて頂く機会がありますが、経営学やマーケティングが専門と言うと、しばしばどうにも困る質問を受けることがます。

それは「どうやったら売れるか(儲かるか)」という質問。

この質問を受けた時、若い頃は「そもそも売れないモノを作らないで下さい」と答えていました。最近は少し大人になりまして、「お客さんの希望を聞いてはどうでしょうか」と答えます。しかしまあいかんせん、器用ではないので、気の利いた答えができないのですが。

マーケティングの`類義語'に「売れるしくみ」や「セールス」という言葉があります。これはマーケティングの成り立ち(機会があれば紹介します)や、成功事例ばかりが紹介されているためかもしれません。コトラーはマーケティングの目的を「全てのセールスをなくすこと」と記していることからも、これらの考えが本来の意味とは異なることがわかります。「どうやったら売れるのか」という質問は、こうしたこと(認識違い)によるのではないかと思います。書店でもビジネス書を見ると、売れる仕組みであるとか、成功事例の紹介などといったものが好まれているようです。

僕はこうした本はあまりお勧めしません。なぜなら理由や背景が書かれていない(検証されていない)ことが多いからです。
(この点については「TOPICS よく受ける質問~どんな本を読んだらいいか」で記しています。)

1つ事例を挙げたいと思います。
松下幸之助氏が二股ソケットを作ったことで、松下電器(現パナソニック)の礎を築いた話は有名です。しかしその背景についてはあまり語られていません。
パナソニックミュージアム 松下幸之助歴史館の展示によれば、当時幸之助氏は、借家の1階を工場として製品を手作りしていました。ここでは二股ソケットについて「アイロンを使いたい姉と、本を読むために電灯をつけたい妹が口論をしている姿を町で目撃した松下幸之助が、姉妹同時にアイロンと電灯を使うことができるようにと二股ソケットを考案した」と紹介しています。
(https://www.panasonic.com/jp/corporate/history/panasonic-museum/konosuke-matsushita-museum.html)

また講演なででは、僕はよくこんな質問をします。
世界一の精度でカセットテープを作っている会社が、売れないことに悩んでいるとします。皆さんはどう思いますか?と。
殆どの方は笑います。当然です、今カセットテープの需要が少ないからです。しかしこの話を笑うのに、実は同じことをしている企業は少なくありません。よく日本人は真面目で勤勉だと言われますし、日本が発展したのはこれが理由だという話を聞きます。しかし真面目で勤勉であることが儲かる理由であるのなら、今頃日本の町工場は、全て大金持ちになっているはずです。

いずれにせよ売れないモノを作らない、言い換えれば人が求めていることをする。そう考えると、マーケティングはとても思いやりのある行為のように思えます。

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