中小企業のマーケティング まずは倣う

マーケティングだけではありませんが、経営学分野のキーワードなどはとかく魔法のテクニックのように思われがちです。「経営学とは」や「マーケティングとは2」でも記しましたが、特にマーケティングというと「儲かる方法」と思われがちです。結論から言えば、全てに通用する儲かる方法などありません。ではどうすれば良いのでしょうか。

マーケティング分析の有名なフレームワークにPEST分析、3C分析、ファイブフォース分析といったものがあります。これらは主に企業や事業の外部環境を分析するためのフレームワークです。SWOT分析を行うのであれば、SWOTの項目の`外部環境'を埋める分析として必要なので覚えておくべきフレームワークです。企業や事業、製品・サービスなど、まずは外部環境から分析していきます。
例を挙げましょう。
時々「こんなものを作ったら売れると思う」というアイデアを聞く(聞かされる)ことがあります。デザイナーの方々などは例えば製品の形状や素材、機能などから検討を始めるのですが、僕はまずアマゾンで調べます。今の時代、インターネットで本当に何でも買えるようになりましたから。
そうすると殆どの場合、アイデアの製品はアイデアよりも優れたものがたくさん売られています。これらを比較して、他にはない特徴を持たせられるか、さらに優れた製品を作ることが出来るか、既存の物より安く製造できる場合のみ、アイデアの可能性の議論を始めます。こうすると皆さんだいたい諦めます。

これはマーケティングに限らず分析の基本ですが、まずは「比較」から始めなければなりません。「優れている」であるとか「安い」とか「特長がある」などという言葉は、全て比較対象があって成り立ちます。つまりまずは既存のものを知るところから始めなければならないのです。余談になりますが、例えばホームページの作成などプロモーションのお手伝いをする時、「誠実」「まじめ」「丁寧」などという表現は使用しないようにしています。これらの言葉は当たり前になければならないものであると同時に、比較が困難です。そのため余程これらの言葉が特徴的でない場合は極力使用を避けるのです。

もう1つ事例を挙げたいと思います。
これは宿泊施設の新規事業に関わった時の話です。当初はグランピング施設の案が検討されており、そのマーケティング資料の作成を依頼されていました。しかしその頃はかなり多くのグランピング施設があり、立地条件なども含め、特長を出すことが難しいと考えました。またそれまでにいくつかの案が提案されていながら、経営トップから支持をえられていなかったことから、グランピング施設を貸別荘の1形態と考え、既存の施設を調べました。その結果、非常に快適で比較的高価格帯の貸別荘型宿泊施設の提案を行い、実施に移すことができました。

情報化の進展により、あらゆることを簡単に調べることができる今日、突然新しいものを生み出すことは非常に困難です。他の成功事例を見てもおそらく本当の模倣困難性は秘匿されているか、様々な意味で模倣できないでしょう。ですからまず他の製品やサービスの優れている点や評価が高い理由、差別化要因、コア・コンピタンスを知り、どこが足りていないかを分析します。そのうえでできることを考えるのです。

これはよく考えたらどんな分野でも同じです。例えば芸術やスポーツでも同じです。一握りの天才は違うのかもしれませんが、過去の優れたものを模倣するのは練習の基本ですね。そういえば正解的に評価の高い人ほど、普通の人以上に基礎の練習や勉強に時間をかけていると聞きますから、やはり同じなのかもしれません。
これは企業でも同じです。フィルムの生産が激減したなかで、世界的に高評価を得る企業になったフジフィルムは、まずバリューチェーン分析を徹底的に行い、自社の特徴と強みを把握したことで、科学の分野で急成長を実現しました。またソニーも2011年の巨額赤字からV字回復を行ったさい、特別なことはしていません。それまでの「ソニー」という会社が特別だという考えをあらため、ブランドの意義を再確認したブランド再編を行い、赤字を減らして利益を上げるという努力をしました。

中小企業では、特別な技術や特徴を持っていて、なおかつ競争優位を確立できる条件が整っている企業は稀なのではないでしょうか。それならやみくもにアイデアを出すより、その業界や競合相手で評価の高い企業や製品・サービスを模倣することが必要となります。

まず優れた点をは倣うことから始めてみましょう。

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