付加価値の再確認 儲かる付加価値とは何か

以前デザイナーの方々と話していたときのことです。
「売れるように付加価値をつける」という発言をちらほら聞きました。経営経済学が専門の僕には、どうにも気持ち悪いというか、収まりが悪く聞こえます。

辞書には「付加価値」について、2つの説明があります。ここで言う「付加価値」は、辞書の2つ目の意味で、他にはない特徴、つまり差別化要因を意味します。

このときのデザイナーの方々の発言は、顧客からの要望です。本来、デザインとは、問題解決方法の1つであって、単に見た目を変えることではありません。デザイナーの方々は、このことを重々承知している方々ですが、、、「付加価値」という言葉については、先の説明のように理解している様子。一般的にも、この意味で使われています。

しかし、ここに大きな問題があります。

・儲からない「付加価値」
上記の内容を、例を挙げて考えてみましょう。
販売価格(市場価格)で、1個1,000円、販売原価800円の商品があるとします。(A)

この商品のデザインを変更します。
デザイン費として、商品1個あたり100円かかった場合(本来はこの計算をするべき)、販売原価が900円になります。(B)

もし、販売原価がどちらも1,000円のままなら、両者の利益を比べたとき、Aは200円、Bは100円です。つまりBは、2倍の販売量がなければ、元の利益を獲られません。
次に、Bの販売価格を1,100円に値上げすれば、販売量が同じなら利益も同じになります。

いずれの場合も、この段階で、「売上」は上がりますが、「利益」は上がりません。

ちなみに、販売価格を市場価格としたのは、実際に消費者が、納得できる価格でなければ売れないためです。
この例で考えた場合、1,000円の商品に、デザインだけで2倍以上の販売量や、100円の価格上昇を上回るインパクトを与えることは、かなり困難だと思います。

この例はかなり単純化したお話です。実際には、その商品の内容や特徴、デザインの内容によって異なります。またデザイン費の設定や算出方法も架空のものです。

「デザインで付加価値をつける」という考え方で、儲かるようにするのは、かなり困難なことではないでしょうか。

・本来の「付加価値」とは
本来の付加価値とは、その作られた商品が持つ価値そのものを指し、総生産額から減価償却費を差し引いたものを指します。ちなみに付加価値には、利子や人件費が含まれ、これをさらに差し引いたものが利益になります。

つまり商品には、必ず付加価値が存在しており、‘売れない’ということは、その付加価値が市場で評価されていないということになります。

ですから、「マーケティングで売れるようにしてほしい」と言われると、「マーケティングを行って、売れないものを作らないで下さい」と答えるわけです。(笑)

・付加価値とデザイン
こういう言い方をすると、屁理屈に聞こえるかもしれませんが、僕は、既存の商品にただデザインを加えても、付加価値を与えることにはならないし、短期的な売上は上がるかもしれませんが、より多くの利益をもたらすのは難しいと考えます。

なぜなら、、、
■認知の高い既存の商品の、(極端なや見た目やパッケージ変更は、認知だ  けでなくイメージなどのブランドエクイティを失うリスクが高い。
■伸び悩んでいる既存の商品は、そもそもの品質(価格を含む)に問題がある場合が多い。
■品質と売上が比例しない場合、市場のミスマッチや流通のミスマッチの可能性が高いので、付加価値の問題ではない。
■伸び悩んでいる既存の商品は、見た目やパッケージで売上を伸ばせたとしても、製品ライフサイクルが短い(ファッド型)ため、デザインコストを回収できないうちに販売量は元に戻る。

もし既存の商品を、デザインによって利益をもたらしたいのてあれば、付加価値の「Reデザイン」(再設計)を行わなければなりません。

つまりデザインによって、既存の商品に不足している機能を、再設計して付与することで、新たな商品に生まれ変わらせ、これまでとは異なる付加価値を持つ製品にする必要があるのです。

この内容に対して、パッケージの変更で売上を飛躍的に伸ばした製品の事例という反論があるかもしれません。
しかしこれらの例は、市場のミスマッチを解消した、つまり伝達機能の改善による問題解決であって、製品自体の付加価値は変わっていません。

・どんな付加価値が儲かるのか
付加価値とは、元来、製品やサービスが持つ効用自体を指します。つまり「どれだけ役に立つか」ということであり、さらに言えば、人が「欲しい」ものかどうかです。
つまり売れないものとは、「役に立たない」ものであり、「要らない」ものということになります。

昨今の、持続可能性や脱炭素が求められる現代では、売れないものを作るのは、社会的な犯罪行為に等しいかもしれません!(笑)

というのは言い過ぎですが、、、

今回はデザインを元に、付加価値について考えてみました。

利益をもたらすためには、付加価値を、「加える」のではなく「与える」と、考えるべきだと考えます。


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