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愛と幸福の循環について

お盆生まれのわたしは、高校生のころまで家族以外の人と誕生日を過ごした経験がなかった。
学校は夏休みに入っていて、帰省や家族旅行に出かけている人が多いこの時期。我が家もご多分に漏れず、お盆は決まって遠方にある祖父母の家を訪れていた。なので誕生日はだいたいいつも、親戚一同で集まって焼肉だかお寿司の出前だかを食べていた気がする。
同級生たちのようにホームパーティーを開いて誰かを家に招いたり、教室でプレゼントの山に囲まれたりした思い出はない。

大学入学と同時に実家を出てからは、10代のとき満たされなかった「家族以外と誕生日過ごしたい欲」をここぞとばかりに発散するようになった。
東京でのひとり暮らしは今年で10年目になるけれど、思い返せばお盆の時期に実家に帰ったことは一度もない。
なにがなんでも、「友人や恋人に囲まれて”おめでとう”を言われるキラキラした一日」を迎えたかったのだ。

学生時代は恋人にブランドもののアクセサリーやバッグをねだり、ディナーは決まっておしゃれなビストロや小料理屋を予約してもらった。
社会人になり家の近くに行きつけの飲み屋ができてからは、誕生日の前夜、店に集まってくれた飲み友達と日付が変わる瞬間にカウントダウンをして、スパークリングワインのボトルを空け、テキーラのショットで乾杯するのが恒例になった(ちなみにこの洗礼をはじめて受けた25歳の誕生日、酒関連では自分史上最悪の失敗を経験した。その話はまた別の機会に書こうと思う)。

そんなわたしが今年の誕生日をどう過ごしたかというと、葉山の海を一望できるホテルに一泊した。
もちろん、恋人と一緒に……ではなく、ひとりで。

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内向的な性格の母に似たのか、幼いころは引っ込み思案で、友人と遊ぶよりひとりで本を読んだり絵を描いたりして過ごす時間のほうが多かった。
紆余曲折を経て人付き合いが得意になった(※当社比)今も、買い物や映画館はもちろん、ラーメン屋にもバーにもひとりで行く。
けどひとり旅は、未だに経験したことがなかった。

1ヶ月前、会社に夏休みを申請するタイミングで、ふと「今年の誕生日はひとりで素敵なホテルに泊まって、心ゆくまでのんびりしてみたい」と思い立った。
都内からアクセスしやすく、海が近くにあり、非日常感を味わえそうな宿泊地をリサーチした結果、まだぎりぎり空室が残っていた葉山のホテルを予約した。

たぶん少し前までのわたしだったら、こんな発想にはたどり着かなかっただろう。実際、2年前の夏に失恋したときは「もうすぐ誕生日なのに、当日一緒に過ごす恋人がいないなんて惨めすぎる」と悲嘆に暮れていた。
回りまわって結婚への焦りが立ち消え、恋愛の優先度が限りなく低い今、ほんとうの意味で「ひとりの時間を楽しめる」フェーズに来ているのかもしれない。

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誕生日の前夜、今年もいつもの店に集まってくれた近所の友人たちに「28歳の目標は?」と問われ、「愛を与えられる人になりたい」と答えた。

2年前、はじめて投稿したnoteに「安心できる愛がほしい」と書いていたように、今までのわたしはとにかく愛に飢えていた。自分のことはすきだし自己肯定感も高いほうだけれど、絶対的な自信がなく、誰かの好意に寄りかかってばかりいた。

自分は特別で、崇められ賞賛されるべき存在だと信じて疑わなかった。自尊心を満たしてくれる人々で身の周りを囲って、私利私欲のために平気で他者を利用し、自分を否定する人間、気に入らない人間はバッサリと切り捨てて生きてきた。自己愛性パーソナリティ障害の気があったし、たぶん今も完全には抜け出せていない。

付き合っていた男性に、あまり長くない交際期間を経てふられるという経験を直近で二度繰り返した。振り返ってみると、わたしは相手に求めてばかりだったなぁ、とつくづく思うのだ。

もっと会う時間をつくってほしい、友人や家族に紹介してほしい、まじめに働いて貯金してほしい、結婚してほしい。
ほしい、ほしい、ほしい。
「こうしてあげたい」も、ときどきあったような気がするけれど、それだって根本の動機は「もっとわたしをすきになって”ほしい”から」だったのかもしれない。

見返りを求めるのではなく、純粋に相手を思いやれる人になりたい。それこそがほんものの愛であり、しあわせの循環を生むのだと、28歳にもなってようやく気づいたのだ。

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そんな話をしたら、かれこれ3年半の付き合いになる友人は「ふーちゃん、大人になったなぁ」としみじみしていた。
もちろん、そう簡単に実行できはしないだろう。でもこうやって宣言すること自体に意味があるはずだ。

「無償の愛」なんていうと大げさだけれど、自分なりの「すき」を見つけて、そこに愛情を注いでいけばいいのだと思う。
周りにどう見られるか、どう評価されるかという基準は切り離して、すきな人たちに会いに行き、心から夢中になれることに打ち込んでいれば、きっと愛は自然に溢れてくる。

28歳を迎え、たくさんの人から受け取った両手いっぱいぶんの祝福を、しあわせな気持ちを、エネルギーに変換して蓄える。
だいすきで大切な友人たちの番がまわってきたときに、こんどはわたしが全力で「おめでとう」を伝える準備をしている。


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