どこかへ飛んでいってしまいそうな宝物は、しっかりと掴んで離さないで 『気球クラブ、その後』 #おうち映画祭
『気球クラブ、その後』 (2006)
園子温監督
初めてこの映画を観たのは数年前、たしかMXかどこかの地上波で、深夜に放送していたときだった。
偶然チャンネルをつけて、途中から観はじめたのに、ぐいぐい惹きこまれてしまった。
詳しい内容はほとんど記憶に残っていなかったけれど、とにかくいい映画だった、ということだけ覚えていた。
園子温の監督作といえばセックス&バイオレンスという印象が強いけれど、この物語にそういった要素はほとんどない。
これはとあるサークルを取り巻く若者たちが繰り広げる、ほろ苦く甘酸っぱい青春の群像劇なのだ。
5年前に空中分解していた気球クラブ「うわの空」の元メンバーたちが、代表者・村上(長谷川朝晴)の事故死をきっかけに再び集結する。
けれど村上のかつての恋人、美津子(永作博美)だけはその場に現れなかった。
当時の溜まり場で缶ビールを飲みながら、あのときはこんなことがあった、あんなことがあった、と思い出話に花が咲く。
この物語は携帯電話の通話から始まる。
電話一本で昔の仲間と連絡がとれ、その日のうちにほぼ全員が集まったけれど、すぐに繋がれることと、関係の深さは比例しない。
結局彼らの多くは気球クラブという曖昧な容れ物に乗っかって、その場の快楽に身を委ね、ただ時間を消費していたに過ぎなかった。
「もっともっと高く飛べる」と意気込み、気球の研究だけに熱中していた村上は、多くのメンバーに囲まれていながら、誰よりも孤独な存在だった。
そばにはいつも美津子がいたけれど、ふわふわと浮き足立って宙を眺めてばかりいた彼と、地に足をつけてまっすぐに前を見つめる彼女の視線が交わることはついになかった。
どれだけ近くにいても、離れていても、肝心なのは心の距離だった。
大切な人に愛を伝えることは、こんなにも難しいものなのだろうか?
劇中でなんども流れる「翳りゆく部屋」が、穏やかに、静かに心を刺す。
二人の言葉は あてもなく
過ぎた日々を さまよう
振り向けば ドアの隙間から
宵闇が しのび込む
どんな運命が 愛を遠ざけたの
輝きは もどらない
わたしが 今 死んでも
わたしたちはいつだって、今ある日常はずっと変わらずに続くものだと根拠もなく信じてしまう。
大切なものは失って初めて気づくのに、決まって目に見えないか、空気のようにそこにあるのが当たり前すぎて、いつの間にか手離してしまうのだ。
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