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映画館はタイムマシーン

元恋人と別れて3ヶ月が経った。
別れの気配を察知してメンタルが低空飛行を続けていたときも、予想通りふられたあとも、足繁く映画館へ通っては気を紛らわせていた。自粛ムードこそ漂っていたものの、3月末まではいつも通りスクリーンで映画を観ることができていた。

先日ようやく緊急事態宣言が解除され、都内の映画館が営業を再開するというニュースを聞いたときは嬉しくて心が躍った。
久しぶりにTOHOシネマズのアプリを開いて、上映作品をチェックしてみる。

ずっと観たいと思っていたのに機会を逃していた、『ミッドサマー』のディレクターズカット版がラインナップに並んでいた。
わたしはこの映画の通常版を公開初日に観に行った。忘れもしない、元恋人と別れる3日前のことだ。


『ミッドサマー』はアリ・アスター監督が自らの経験した失恋の痛みを浄化させるために撮った映画だ。
「いやこの恋愛もうだめじゃん、破局秒読みじゃん」というカップルのやりとりが冒頭数十分にわたり流れるのだが、タイムリーすぎて胸が痛かった。
「お前も今にこうなるぞ」と見せつけられているようで、半分諦めモードに入っていたわたしは「どうせなら別れたあとに観たかったな」なんて頭の片隅で思っていた。

そんな思い入れのある作品を、久しぶりの映画館で、失恋の傷も癒えてきたタイミングで再び観られるなんて最高じゃないか。
かくして週に一度の出社日、仕事を定時で切り上げて、だいすきな日比谷のTOHOシネマズに足を踏み入れた。


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(ネイルもホルガ村仕様)


映画館の入り口にある発券機は半数が使用中止となっていた。横一列に並ぶ機械を使用可、使用不可と交互に分けることで人が立つ間隔を空け、密を防いでいるらしい。こんなところでもソーシャルディスタンスだ。

座席も間隔を空けての販売となっていたので、こう言ってはなんだが隣のお客さんへ必要以上に気を遣わずに済み、ゆったりと鑑賞できた。


自粛期間中もNetflixやAmazonプライムを利用して家でいろいろな作品を観ていたけれど、やっぱり映画は映画館で観るのがいちばんいい。

巨大なスクリーンや迫力ある音響と共に映像を楽しめるのはもちろん、2〜3時間集中して鑑賞し続けられる環境はかなり貴重だ。
よっぽどおもしろくて惹きこまれる作品でない限り、自宅だとどうしても途中でスマホに手が伸びてしまったり、他のことに気をとられたりしてしまう。

映画館という閉鎖的な空間でなら、目の前のスクリーンとまっすぐ向き合える。暗闇のなか椅子に座って、スマホの電源も切って、ほかの情報はすべて遮断して。


映画館はタイムマシーンだ。
ここではないどこかへ、今ではないいつかへ、わたしを連れていってくれる。
あるときは第二次大戦下のドイツへ、またあるときは韓国の富裕層が住む豪邸や半地下のボロアパートへ、そして北欧の山奥の村で開かれる祝祭へ。

『ミッドサマー』を観ているあいだ、3ヶ月前のわたしと今のわたしが重なって交じり合った。

気が動転して精神がぼろぼろで、主人公のダニーに自分を投影してどん底まで堕ちてしまいたい気持ちと、わずかな希望を諦めたくない気持ちとのあいだで揺れていたあのとき。
この映画に救われこそしなかったものの、エンドロールが流れるころには心のどこかで恋の終わりを迎える覚悟を決めていた。

今のわたしは、ダニーのことも過去の自分のことも俯瞰で見つめられたけれど、3ヶ月前にこの作品を観ていなかったら味わえなかったであろう感傷を、名前のつけがたい曖昧な感情を、どうしようもなく愛おしく思うのだ。

映画館という場所は、そんな巡り合わせをもたらしてくれる。時空を超えて、まだ見ぬ世界や懐かしい記憶、新しい自分と出会わせてくれる。
7月以降も楽しみにしていた新作の公開が目白押しだ。
次はいったいどんな旅ができるのだろうかと、今から期待に胸を膨らませている。



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