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【読書録】『定年後』楠木新

今日ご紹介する本は、楠木新氏の『定年後』(2017年、中公新書)。副題は『50歳からの生き方、終わり方』

タイトルどおり、会社員の定年後についてがテーマ。独自取材を通じて、長年組織に所属してきた会社員がどうしたら定年後に幸せな生活を送れるのかを考察したものだ。

副題からして、50歳読者がターゲット。アラフィフの私は、まさに本書の想定読者だ。期待して読んだ。

以下、特に印象に残った箇所の要約と、それについての感想をまとめてみる。まずは、要約から。

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  • 定年後を3つに分けて考える。①定年退職から74歳まで。②75歳以降。③最期を迎える準備期間。

  • 会社組織で長く働いていると、人生で輝く期間は役割を背負ってバリバリ働く40代だと勘違いしがち。しかしそれは社内での役職を頂点とする考え方。上記①の60歳から75歳までの15年が本当の黄金期間。

  • 60歳からの人生における自由時間は8万時間(上記①の15年が1日11時間、上記②の10年が1日5.5時間と仮定)。これは20歳から働いて60歳まで40年間勤めた総実労働時間よりも多い。

  • 40年も企業社会の中で朝から晩まで共同作業をやってきた人たちが、いきなり一人になっては力を出せず意欲も湧かないのも当然。有り余る時間を有効に使い悠々自適に過ごせる人は少ない。

  • 定年後の現象:曜日の感覚がなくなる。失ったものが目につく。生活リズムが乱れる。名前を呼ばれるのは病院だけ。人との関わりが薄れる。図書館、ショッピングセンター、スポーツクラブ、大手ハンバーガーショップ、フランチャイズのカフェなどで過ごしているが、誰もが独りぼっち。

  • イキイキした生活を送っているのは全体の1割5分くらいではないか。

  • 会社は天国。人に会える。情報交換ができる。若い人と話せる。出張や接待もある。仲間や友達もできる。規則正しい生活になる。暇にならない。給料やボーナスがもらえる。居場所になる。

  • しかし、共有の場で身につけた受け身の姿勢が、定年後に新たな働き方や生き方を求めることを難しくしてしまう。

  • 身も心も会社組織に埋め込んでしまうからいけないのであって、一定の距離を置いて接すれば会社ほど有意義で面白い場所はない。

  • 社内で高い役職についているからといって、未来の自分が必ずしも輝くとは限らない。

  • 人は若いころの成功を中高年以降まで持ち越すことはできない。若い時には注目されず、中高年になっても不遇な会社人生を送った人でも、定年後が輝けば過去の景色は一変する。終わりよければすべてよし。定年後、人生の後半生が勝負。

  • 地域や家庭において私的な人間関係をどのように築いていくかが定年退職者の課題。

  • 在職中から新たな取り組みをスタートすることが肝要。会社を離れると驚くほど刺激は減少する。会社では出勤すれば黙っていても多くの人と会える。こんな機会は退職するとあり得ない。

  • 小さい頃に得意だったこと、好きで好きで仕方がなかったことが、次のステップのカギを握っているケースがある。

  • 何らかの形で社会とつながっていないと、定年退職者の行く末は厳しくなる。

  • 社会とつながる力=X(自分の得意技)x Y(社会の要請や他人のニーズ)。多くの会社員はこのYをグリップする力が弱いので、会社を離れると途端に社会との関係が途切れてしまう。経済的には問題なくても、この社会とのつながりが持てずに悩んでいる定年退職者が多い。

  • 社会のつながりを目指すうえでこだわるべきこと2点:①何に取り組むにしても趣味の範囲にとどめないで、報酬がもらえることを考える。②自分の向き不向きを見極め、自らの個性で勝負できることに取り組む。

  • どれだけお金を稼いだか、どんな役職やポジションにいたかよりも、現役でいることがすべてに勝る。

  • 定年退職後の居場所にはいろいろなものがある。それぞれの人にとって居心地がいい場所を探せばよい。ただ自分の利益を中心に考えたり、自らは何もせずに手をこまねいているだけでは得られるものは少ない。何かが向こうからやってくるという姿勢では何も動かない。

  • 一人の生涯の中には、積み立て型の時期と逆算型の時期がある。若いうちは、人生で得るものを積み重ねていく積み立て型の時期。一方、40代半ばを過ぎた頃からは、自分が死ぬことを意識し始めて、そこから逆算して考える方向に徐々に移行する。

  • 逆算型の生き方は、老いや死を取り入れながら生をイキイキさせることにつながる。数十年間生きてきて、そして今死んでいかなければならないという厳粛さは、本当に自分にとって大事なものに気づく機会になる。

  • 新しい自分はかけ離れたところではなくて、自身の悩みや病気、挫折、不遇に向き合い、そこから立ち上がる中に存在している。これはもともと自分の中にあるものをつかみとる作業。

  • 死と向き合わないと、本当の意味での老いや死に至る準備はできないと言えるかもしれない。

  • 組織で働く会社員の中には、次の世代に語るべきもの、若い人に継承するものを自己確認できていない人が多い。定年退職者も同様。

  • 次の世代に何らかのものをつないでいくことは自分の存在を確認できることにつながる。

  • 会社で働いていたときはツアー旅行やパック旅行。定年後にイキイキと過ごしている人たちは、ローカル路線バスの旅のように、自分が進む道筋を自分で切り開いている。

  • 人生には、自分で自分のことを簡単にはコントロールできない時期と、自ら裁量を発揮できる時期がある。定年までの会社人生はリハーサルで、定年後からが本番と考えてよいのではないか。

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以下、感想。

結論として、とても面白く、かつ、有益だった。

著者ご自身のご経験や、ご友人から聞いた話、その他定点観測など独自の取材に基づき、定年後の元会社員の生態について鋭く切り込む。定年後の元会社員が日々をどのように過ごしているのか、何を考えているのかなどについて、現役世代との大きなギャップに愕然とさせられた。

日々、社畜として慌ただしいを送っていると、早くリタイヤしたい!などと思うこともある。しかし、無計画のままリタイヤした結果、図書館やマックで毎日時間をつぶさなければならない人生なんて、悲しすぎる。定年退職者の悲哀は、老親の様子などからうっすらと想像してはいたが、自分ごととして真剣に考えたことはなかった。今から約10年後のシュミレーションができて、とても有益だったと思う。

60歳からが人生の本当の黄金期間であるという表現には、勇気づけられた。確かに、8万時間という時間が自由になるのだ。会社に縛られることなく、自分で何でも決めることができ、やりたいことを実行できる。ただし、体力と気力は有限だ。身体が元気な若いうちに、会社一辺倒の生活を見つめ直し、準備をしていく必要性も痛感した。

では、黄金期間に、何をやるのか? 死を考えて残り時間を逆算しつつ、幼い頃好きだったことにヒントを求めるというエクササイズは、定年後の人生をどう生きたいかについて、気づきを与えてくれそうだ。

ところで、私には、「会社は天国」だという箇所が、妙に印象に残った。会社員であるだけで、自動的に人とのネットワークづくりができ、社会とつながることができ、刺激をもらえる。これは実はとても素晴らしいことだ。この点強く共感した。

最近は、副業のために会社での仕事はミニマムにせよとか、完全リモートワークが効率が良いなどの論調に触れることが増えた。確かに、会社に頼りすぎるのはリスキーだと思う。しかし他方で、せっかく会社で働いているならば、会社勤めを通じて人と触れ合うことができ、学びを得られるという恩恵を享受しないことはもったいない。ふりかえって見れば、今までの会社人生で一緒に仕事を頑張った同僚には、今でも頼れる大切な友人が何人もいる。会社で学んだことのなかから、心のアンテナに引っかかり、もっと深く勉強したいと思うテーマも見つかった。会社外でのネットワークや自分探しも大事になってゆくが、然は然りながら、定年前に会社内で頑張ることにも、定年後の生活を豊かにする側面があるなと感じた。

アラフィフ世代の私にはドンピシャの本だったが、アラフォーやアラ還のみなさんにも十分役立つと思う。

ご参考になれば幸いです!

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