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【読書録】『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』オードリー・タン

今日ご紹介する本は、台湾のデジタル担当大臣であるオードリー・タン氏の『まだ誰も見たことのない「未来」の話をしよう』(近藤弥生子氏執筆、SB新書、2022年3月)。

タン氏については、2020年にコロナ禍の台湾でマスク在庫管理システムを構築して、台湾のコロナ対策に多大な貢献をした、デジタルの天才だ。メディアでも大きく報じられたので、ご存知の方も多いだろう。

そのタン氏が語ったことをまとめた本が出たということで、興味を持って、読んでみた。

その結果、とても感動した。

ITやデジタルという、とっつきにくい概念を、誰にでも分かるように、極めて平易な言葉だけを使ってかみくだき、読者に語りかけている。本当に頭の良い人にしかできないことだ。

また、政府の情報や議論などをオープンにし、市民から意見や議論を広く受け付け、誰も取り残さないインクルーシブな世界を目指す。利害打算などには一切興味がないようだ。ここまで透明性、公平性について強い信念を持っている政治家は、日本には果たしているのだろうか。

そして、タン氏は、紛れもない天才でありながら、驕るところのまったくない、すばらしい人格者であり、とても優しい人だ。それが、この本全体からありありと伝わってきた。

これを読んで、タン氏のファンになった。こういう人材がいて、こういう人が大臣に選任される台湾を、心底、羨ましく思う。こういうリーダーの呼びかけに協力し、全員参加で政府を変えていこうとする台湾の人々の民度も、大変高いのだろう。つい、日本と比べてしまい、嫉妬すら覚える。

日本にはどうしてこういう政治家がいないのか、と嘆きたくなるが、自分も何もできていない人のひとりだ。まずは、自分が、タン氏に近づけるように、できることをしていきたいと感じた。

以下、備忘のために、この本から学んだことを要約しておく。

ITとデジタル

  • IT(Information Technology)は機械と機会をつなぐもの、デジタル(Digital)は人と人とをつなぐもの。(p16)

  • ITの強みは、何かが発明されたとき、それを簡単に、殆どコストを必要とせず、他の場所にいる人に使ってもらうことができること。(p21)

  • ITを用いて人がつながっていくことがデジタルのコアバリューであり強味み。(p22-23)

  • AIはAssisitive Intelligence(補助的知能)であり、理想のAIはドラえもん。ターミネーターのようなAuthoritarian Intellienge(権威的知能)ではない。(p35)

台湾のデジタル民主主義

  • 「オープンガバメント」(開かれた政府)がミッションのひとつ。

  • Open API((Application Programming Interface= 外部から接続するための仕様や手続きのためのインターフェイス)を公開し、外部から連携できるようにすること)で政府をオープンにした(p46)

  • オープンガバメントは、4段階に分けられる。①オープンデータ(政府の資料やデータを開放)→ ②市民参加(意見がないか問いかける)→ ③説明責任(政府が回答する) → ④インクルージョン(誰かのことを忘れていないかを探す)(p46)

  • コロナ対応は3つのF:Fast(速さ), Fair(公平さ), Fun(楽しさ)。政府が速やかに対応し、情報の通達や政策は公平に、ユーモアを持って行うことが重要な成功要因(p50)

  • 民主的であるためには、投票だけではなく、絶え間なく警笛を鳴らし、この社会の討論を刺激する人が必要。そのために、言論の自由と、社会に十分な「素養」があることが必要。(p69)

ソーシャルイノベーションと全員参加の社会

  • 総統杯ハッカソン:台湾各地が抱える課題を市民たちが定義し、政府が公開するオープンデータを活用しながら解決策を模索する(p81)

  • シビックハッカーによるコミュニティ<g0v(ガヴ・ゼロ)>のスローガンは、「なぜ誰もやらないんだと嘆くより、まずは自分がその”誰もやらないうちの一人”であることを認めよう」。

  • <g0v>は、「政府がうまくできないなら、自分たちが手本をみせよう」というスタンスを取っている。(p91)

  • 異なる能力を持っていたり異なる角度で物事を見る人が、自分とは異なる部分の問題を解決できる。だからこそ、皆で分担して問題を解決し、解決方法をシェアすることがとても大切。こういう姿勢が「オープンイノベーション」であり、この姿勢で社会問題の解決に当たることが「ソーシャルイノベーション」。(p93)

  • 「ソーシャルイノベーション」が生まれるために必要なのは、社会が自由で、これまでに見たことがないものでも受け入れることができるということ。(p103)

  • 「ソーシャルイノベーション」を進めるためには、「共通の価値観」が必要。現実では人と人とが知り合って協業するまでには時間がかかるのに対し、インターネット上では面識のない人々とでも共通の価値を見つけてともに実践することができる(p107-108))

  • 共通の価値観を築くには、事実を共有し、お互いに客観的な状況を理解しあうことが必要。(p116)

  • 政府によって運営されている<Join>というプラットフォーム:メールアドレスと台湾の電話番号さえあれば政策に対する意見を投稿でき、60日以内に5000人以上の賛同が集まれば、政府が対応する。市民からの提案の他にも、政府が進めるすべての政策について、予算や進度といった情報を公開する機能もあり、随時更新されている。国民は投票によって政治を任せた後にも、政策がしっかり実行に移されているかを監督することができる。(p121-122)

  • 「誰も取り残さない社会」こそが「ソーシャルイノベーション」の礎となっていく。(p126)

世界と私たちの未来

  • <SDGs>の根底にもなっていて非常に大事にされている「インクルーシブ」という考え方は、多様性を重視し、誰も取り残さないようにすること。社会に参加することは権利であり、身体や精神、言語などいかなる理由があっても、一人ひとりに平等に与えられているもの。(p147)

  • <SDGs>の達成可能性については、コロナ禍と温暖化が鍵。この2つを解決できれば、他のことは比較的簡単に達成できる。(p148)

  • <SDGs>に必要な要素は、一人ひとりが<SDGs>の基本概念を良く理解すること。(p163)

  • 疑問があれば絶え間なく質問を続け、正確な知識を得ることも大事。少数の専門家たちだけが現況を理解していて、社会はその専門家たちのことが信頼できていないという状況よりも、社会の一人ひとりが理解し信頼し合えているほうがずっと良い状態。(p165)

  • インターネットが普及した今、私たちが世界中で連帯して未来をつくっていくために追い風となったのが、<限界費用(Marginal Cost、モノやサービスの生産量を1単位増やしたときのコストの増加分)>の減少。(p176-177)

  • <限界費用>がゼロのものがあれば、私たちはごく自然にシェアしあう習慣ができつつある。(p180)

  • 100年後の世界を生きる人々が、自分でさまざまなことを決めることのできる可能性を奪ってはならない。そのために私たちができる大切なことは、できるだけ取返しのつかない変化を起こさないようにすること。(p181-182)

日本の読者からの質問への回答

  • 「自分がすべきことがわからない」:100%完璧でなくてもよい。急いで解決しなくてもよい。不安な気持ちこそが原動力になってくれる。(p187-194)

  • 「仲間を見つけたいと思ったとき、どうすべきか」:歴史あるコミュニティではなく、できたばかりのコミュニティに無理のないペースで参加してみてはどうか。(p195-p199)

  • 「社会のためにできることはあるのか」:一人ひとりにできるのは、何か問題が起こったら、その問題の原因を考え、再び同じことが起こらないようにするための方法を考えて行動すること。(p200-p204)

  • 「社畜でいる自分はどうなのか」:社畜であることに何か問題があるか? 社畜という言葉を使うということは、もっと価値のあることを探したいという意識であり、変化するためのチャンス。(p206-p207)

  • 「なかなか自分を優先できない」:自分を大切にすることは、他の人を大切にするための練習。自分の精神や健康と引き換えに、他の人のそれを支えるのではなく、自分の精神や健康を大切にしながら、人のことを大切にする能力をつけ、それをコントロールしていこう。(p208-p211)

タン氏の個人的なこと

  • タン氏の発言部分に関しては転載・二次利用しても構わない(p5)

  • 睡眠をとても大事にしていて、できれば一晩8時間以上寝ることにしている。(p45)

  • 入閣の際に出した3つの条件:①行政院(内閣と省庁を併せたものに相当)に限らず、他の場所で仕事をしてもいいこと、②出席するすべての会議、イベント、メディア等でのやりとりは、録音や録画をして公開すること、③誰かに命じることも命じられることもなく、フラットな立場からアドバイスすること。いずれも認められた。(p78)

  • いつも自分自身をオープンにしている。オープンオフィス、議事録の公開、メールアドレスの公開、自身の写真や音声、取材や講義の記録など。誰でも引用できるようにしている。自身が公共のメディアであり素材集。(p140)


以上から、タン氏とこの本の素晴らしさが、少しでも伝わっただろうか。全ての人にお薦めしたい一冊。多くの人にお読みいただければ、とても嬉しい。

ご参考になれば幸いです!

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