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「新宗教と巨大建築」を読んだよ

7月に天理の街を見に行って「宗教建築とか宗教都市って面白いよなぁ」って思ったので読んでみた。

19世紀以降に生まれた新宗教で、どんな時期に、どんな意図で、どんな建築が造られてきたのかを仔細に調査してまとめた本。私はただの好奇心で「奇怪な」宗教建築を見るのが好きなんだけど、この本の著者はそういう怖いもの見たさではなく、「不気味」とか「怪しい」とか「キッチュ」とかそういう先入観を一旦脇に置いて、丁寧に取材している。

天理教の聖地「ぢば」に建つ神殿や、瓦屋根のビル群「おやさとやかた」については特に詳しく解説されている。似たような時期に生まれた金光教大本教についても、天理との比較を交えて語られている。

真光」系列の宗教の神殿はどこもかなり独特なそり返った屋根を持ち、不思議な形をしているが、これは真光が生まれる母体となった大本教の遺伝子を受け継いでいるらしいってのが面白かった。今の大本教の建築はわりとスタンダードな和風のものなのだけど、戦前に強い弾圧を受けて破壊される前の、出口王仁三郎が直接関わった建築はかなり独特だったらしい。…見てみたかったな。

オウム改めアレフの建物についても実際に取材して紹介している。サリン事件を起こして世間からの風当たりがたいへん厳しくなってからのマイナスからの再出発であり、取材や撮影については比較的オープンな姿勢のようだ。

明治以降の神社建築や寺院建築の流れについても取り上げている。関東大震災の後、神社を耐火性のコンクリート造にしようという話も出たが結局木造のままだった、とか、寺院建築の方が新しい建築技法を柔軟に取り入れた、とか。

海外についても、ベトナムのカオダイ教やアメリカのモルモン教の聖地を取材している。カオダイ教はホーチミンのついでにツアーで見に行ったことがあるのでとても興味深く読めた。アメリカのソルトレイクシティは「20年ぐらい前に冬季オリンピックやってたよね」っていうぐらいの認識しかなかったけど、砂漠の真ん中にモルモン教徒が一から作った街なのだと初めて知った。ここも一度見に行ってみたいな…。

巻末の「自著解説」から、たいへん共感した一節を。

現代において宗教施設が可能性をもつとすれば、公共事業や資本主義の論理ではとてもできない強い意志をもった建築をつくることではないか。やはり建築を作るなら、いいものを作って欲しい。美術館やホールだと、すぐにハコモノ行政だという批判的な声が挙がるだろう。民間の大型開発はリスクをおそれ、どこも似たような空間を生産している。が、新宗教の建築は、そうした枠組にとらわれずに、いい建築をつくるための条件が整っている。市町村の場合、首長が代わると、政策が変わってしまう。一方、宗教だと長期的なスパンのプロジェクトを遂行できる。

いろいろと好奇心を満たしてくれる、他にはないタイプの本だった。

ちなみに、これは10年前に見に行ったカオダイ教の神殿。

そして2ヶ月前に見に行った天理教の「おやさとやかた」。

宗教建築巡り、楽しいですよ♪

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