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【毎日note460日目】誰一人として読者を切り捨てない/『お探し物は図書室まで』(青山美智子)感想

久しぶりに風邪を引いて、体調は死んでるのですが😭😭😭

読みんでいる本はいつだって面白くて、ホルモンバランスが狂っているせいか(?)悲しき話でもないのに、ボロボロ泣きながら読んでしまいました。


本日は、「本屋大賞ノミネート10作品全部読んで、勝手に感想書いてみた」企画の2作目。


町の図書室を舞台に悩める人間たちが描かれる、青山美智子さんの『お探し物は図書室まで』(ポプラ社)の感想を書かせてください。


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本作は、小学校に併設されているコミュニティハウスの中にある、町の図書室を舞台にした5章からなる連作短篇集です。

集会室や和室もあり、大人向けの講座も開かれているコミュニティハウスは、老若男女、日々様々な人間が訪れます。



図書室の奥にあるレファレンスコーナーでは、身体はすごく大きくて色白、ひっつめられた頭の上にちょこんと小さなお団子をのせた、さゆりさんというちょっと無愛想な司書さんが、利用者が探している本を調べてくれます。


司書補であるのぞみちゃんに促され、さゆりさんの元を訪れる人間は、みんな何かしら悩みを抱えていました。

「何をお探し?」


どっしりとした不思議な安心感のある声で問われた利用者たちは、本だけでなく、いつの間にか人生の悩みについても打ち明けてしまうのでしたーー。


😃😃😃

仕事をする目的がわからない21歳の婦人服販売員や、夢の先を叶えたい35歳の家具メーカー経理部男性、就職せずに家でぷらぷらしてることに罪悪感を抱える30歳のニートに、定年退職後、暇を持て余した65歳の元営業社員…。


本作は、様々な人間が図書室を訪れますが、私が一番印象的だったのは、元雑誌編集者である40歳の夏美の回でした。


出版社で若い女の子向けの雑誌を担当し、入社から15年、バリバリ働いていた夏美。


彼女は、当時70歳の彼方みづえ先生の小説を、周りから大反対にあいながらも、「絶対に読者に届く!」と信じて、周りを説得し、雑誌にて連載を開始させます。


結果的に大好評を博し、書籍化が決定。大きな文学賞まで受賞する成功を収めます。

そんな中、妊娠が発覚ーー。



37歳の夏美は待ち望んでいたことでしたが、激務の編集部で迷惑をかけぬよう、臨月ギリギリまで働き、4ヶ月で復帰したものの、なんと復帰早々、資料部への移動を言い渡されてしまいます…。

しかも、育児は思った以上に大変で、仕事中の保育園からの呼び出しや、夫との連携も全然スムーズにいかない現実に戸惑うばかり…!

そんな中、娘を連れて町の図書室へ訪れるのです。


「何をお探し?」


穴で冬ごもりしている白熊を思わせる司書のさゆりさんに問われた夏美は、子どもの絵本を探していると告げますが、話の流れで、育児が行き詰まっていることを打ち明けてしまいます。



そんな彼女にさゆりさんは、絵本のリストともう1冊、毎日の星占いをSNSにアップしてる石井ゆかりさんの『月のとびら』という本を紹介し、「本の付録」と称して、さゆりさんお手製の羊毛フェルトでできた地球を渡します。

この、さゆりさんが紹介した『月のとびら』と羊毛フェルトの地球が、夏美の人生を予期せぬ方向へ変えていくのですが…!!!


石井ゆかりさんは、実在するライターさんですし、『月のとびら』という本も本当にありますし、さゆりさんが紹介する本の多くが、本当に存在するものであるところも、本好きの一人としてにやにやしてしまいました(笑)


😃😃😃

本作は、特段変わったお話というわけでもないと思います。


しかし私は、本を読みながら何度もボロボロ泣いてしまったし、ある章で悩んでいた誰かが、今度は別の章で、誰かの助けとなって活躍しているのを見て、心を打たれました。


この本が、本屋大賞にノミネートされた理由もわかるような気がします。


誰一人として読者を否定せず、置き去りにしない優しさにあふれているのです。


醜い感情や嫉妬、人にはとても話せない自分自身への絶望や将来への不安…そういった感情を全部全部救いあげ、昇華させる方向へと持っていくのはすごいなあ…優れた小説というのは、本作のようなことを言うのか…としみじみ感じました。


元雑誌編集者の夏美が、70代の作家・みづえ先生に、育児の悩みや編集部で活躍している人への嫉妬心を、個人的な食事会で打ち明けた時のみづえ先生の返答は特に心に残りました。


「ああ、崎谷さん(夏美のこと)もメリーゴーランドに乗ってるとこか」
「よくあることよ。独身の人が結婚してる人をいいなあって思って、結婚してる人が子どものいる人をいいなあって思って。そして子どものいる人が、独身の人をいいなあって思うの。
ぐるぐる回るメリーゴーランド。おもしろいわよね、それぞれが目の前にいる人のおしりだけ追いかけて、先頭もビリもないの。つまり、幸せに優劣も完成形もないってことよ」


…私自身も、周りの女性を見てしょっちゅう「いいなあ」と嫉妬してしまうので、なるほど! メリーゴーランド!! と、何だか励まされてしまいました。


どんな状況にいようが、視点を変えればちゃんと未来へ続く道はあるし、夢をあきらめる必要もない。

そのきっかけを作る司書のさゆりさんのことがすごいなあと思ったし、とっても素敵な短編集だったなと、心の底から感じた物語でした。



さゆ


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