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月曜サスペンス劇場「たこ焼き3個食べて鼻汁、呼吸困難、じんましんの怪」

 その日、あさこは、親友のゆう子と、ゆうこの恋人のケイタを下宿しているアパートに招待してたこパで盛り上がる予定だった。
 ゆう子とともに帰宅後、あさこは「お好み焼きミックス」をキッチンの戸棚の奥から取り出し、たこ焼きの生地を完成させた。
 と同時に、ゆう子のケイタイの着信音が鳴った。ケイタからの電話だった。 「いま、迎えに行くね」
 ゆう子は、あさこを部屋に置いたまま、アパートを出た。
 そのとき、あさこは、この後、とんでもない事件「パンケーキ症候群」に巻き込まれるとは、想像だにできなかった――。
 いま、あのときの出来事を思い出しても身の毛がよだつ、月曜サスペンス、はじまり、はじまり。


あさこ「私は何もやっていない‼」

お願い、誰か‼ 誰か助けて‼

アパートじゅうに響く大きくて悲痛な声で、ゆう子は叫んだ。
その両腕に、恋人ケイタを抱きかかえながら。
ゆう子のわきには、呆然とした表情のあさこが立っていた。

あさこの部屋で、いったい、何が起こったのか――。

ゆう子がアパートを出て10分後
<ピンポーン>
ゆう子がケイタを連れて戻ってきた。
「どうぞ」
あさこは、2人を中に招き入れると、すぐさま冷蔵庫から取り出した缶ビールを手渡し、
「じゃあ、さっそく、カンパーイ」
あさこは缶から直接ビールを飲みながら、たこ焼きを焼き始めた。
焼きあがったたこ焼きを、あさこは金串で救い上げると、たこパは今日がはじめて、というケイタの皿に置き「アツアツのうちに食べて」と言った。
ケイタは、ほふほふ言いながら、あさこのたこ焼きを1個、2個、3個と食べたところで、鼻水が出て息がしづらそう、に見えた。

しばらくするとケイタは「はあはあ」と呼吸が荒くなり、全身にじんましんが現れ、意識もうろうに。
「ケイタ、どうしたの、しっかりして、ケイタ‼」
ゆうこの、ヒステリックな声を遠くで聞きながら、あさこは、短い間にこの部屋で何が起こったのか、頭のなかで再現していた。

アパートの住人が呼んでくれたのだろう、救急隊員がやってきた。
ケイタとともに、ゆうことあさこは救急車に乗り込んだ。
近所で、いちばん大きい総合病院に搬送されるとのこと。ほっと、一息ついたあさこの耳に、ゆうこの声がつんざく。
「たこ焼きを食べた後に、こんなことになったんです」
あさこは、驚きを隠せない目で、ゆうこを眺める。
「あたしじゃない‼ あたし、何もやってないから‼」

まさかの真犯人⁉ 

救命救急外来の医師が、あさこと、ゆうこのもとへやってきて、
「ケイタさんの、口元についていたソース、あれは、おたふくソースの、たこ焼き用ソースだと思うのですが」
ケイタの具合が悪くなるまでに何があったのか、あさことゆう子に質問を積み重ねていく。
「今検査の結果が出ました。これまでのヒアリングも踏まえ、パンケーキ症候群ですね」
「パンケーキ症候群⁉」あさことゆう子は、声を合わせて、そう言った。
「あの、さっき言った通り、たこパをしていたのであって、パンケーキは出していません」
「あさこの家に行く前に、パンケーキを食べたこともないんです」
「ははは」
なんと、不謹慎にも、医師の笑い声。
「あ、すみません」医師は2人に詫びを入れ、続けてこう言った。
「検査の結果、ケイタくんは、ダニアレルギーを持っていることが判明しました。それにより『パンケーキ症候群』――正式には『経口ダニアナフィラキシー』と言いますが――というわれわれの予想が見事的中したわけです。
ちなみに『パンケーキ症候群』とは、どういうものなのかと言いますと。
うまみ成分が添加されたミックス粉を、開封後、常温で放置、復路のなかでダニが大量に繁殖した。そのようなお好み焼きミックスでつくったタコ焼きを食べたことにより起きたアナフィラキシーです」
「先生、お好み焼き粉で起きたアナフィラキシーだから、お好み焼き症候群のほうが正しいんじゃないですか」
「いや、たこ焼き食べてアナフィラキシーが起きたんだから、たこ焼き症候群ではないでしょうか、先生」
2人のうら若き女性に言い寄られ、医師は自分の中に燃えたぎるものを一瞬感じたものの、冷たいメスで切り裂いて捨てた。
「おっしゃりたいことはわかります。しかし、症状と経過、原因に基づき、この状態をパンケーキ症候群とすると、われわれは学生の頃ならいました。いまさら、教科書に書いてあることをくつがえすことはできません」
医師はそういうと、おつきの、インターンに、ケイタの処置について指示を出し、「じゃあ、次の患者が待ってますので」と、その場を立ち去って行った。

インパクトの強い言葉で、人々の印象に残す

 よくもまあ、くだらないショートショートを――そう思った方もいるのではないでしょうか。
 物語自体は、フィクションなのですが、「パンケーキ症候群」というのは、実際にある症候群です。

日本では、パンケーキというよりも、お好み焼きのミックス粉に繁殖したダニを経口摂取したことによるケースが多いので「お好み焼き症候群」としたほうがいいのではないか、という意見があるとか、ないとか。

それはともかく、なぜ、こんな名前が付いたのかというと、注意喚起のためでしょう。
インパクトのある言葉のほうが、人びとの印象に残りますからね。

話はズレますが、本の企画書も、
構成(本でいうところの目次にあたる)のところで、
インパクトのある言葉をおしみなく、盛り付けると
編集者さんの心をぐっと、わしづかみすることができる
ということが言われております。
もちろん、原稿を書くときも、もちろんそうです。
大見出し、小見出し、書籍の場合は、目次と前書きに命ささげます。
えぇ、インパクト勝負です。
道すがらふらっと立ち寄った本屋さんで、何気に手にとってくださった心をわしづかみにして離したくない。つまり、買っていただきたいのです。
自分の命をわけて生んだ我が子ですから。

(^^ゞぽりぽり
そうです、言いたかったのは、ここなんです。
というわけで、今日はこれまで(^^)

本日も最後までおつきあいくださり、
心より感謝いたします。

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