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eijunプロジェクト第3弾シングル【「君を、想う。(feat. RINA)」楽曲レビュー】 THE BACK HORN菅波栄純の源流「切なさ」と「喪失」に迫る

「君を、想う。」を聴いてあなたが最初に浮かべる人は誰だろうか?

――七夕の7月7日「君を、想う。 (feat. RINA)」 配信リリース

THE BACK HORNのギタリスト菅波栄純が2021年春に始動させた“eijunプロジェクト”。その第3弾シングル「君を、想う。 (feat. RINA)」が七夕の7月7日に配信リリースされた。ゲストヴォーカルは、集団行動の齋藤里菜をRINA名義として迎えた。

――eijunとは?

eijunは、日本を代表するロックバンドTHE BACK HORNのギタリストである菅波栄純が、今までバンド活動や楽曲提供で得た作詞・作曲・編曲家としてのキャリアを、バンド活動の枠にとらわれずに自由に発表するソロプロジェクト上の名前である。

今までにeijunの楽曲は2曲リリースされている。


「あいしてぬ (feat. さかな)」 2021.04.21 Release


「らぶこめみ (feat. さかな)」 2021.06.02 Release

――第2弾シングルまでとの違い

eijunはバンドとは違うアプローチで、作家の部分をショーケースとして見せるというプロジェクト。その第3弾にして、ついに菅波栄純が持つ「切なさ」と「喪失」という真骨頂を遺憾なく発揮した。楽曲テーマは【失って気が付く大切な時間に、会いたい想いが涙と共に溢れる】であり、前作までのアプローチとは変えて、バラードとしてドラマティックに表現している。確かに、1~2曲目からも片思いのキュンキュンするような切なさは表現されていた。しかし「君を、想う。」は、意図せずに溢れ出た「切なさ」に思えたのだ。

前2作は、ゲストヴォーカルのさかなのハイトーンを活かしたメロディと、ティーンエイジの片思いを主軸としたキラキラ弾むような楽曲だった。今回は落ち着いた成人女性のイメージを持つ、RINAの声の特徴や音域を活かすようなメロディとなっている。

――「君を、想う。 (feat. RINA)」楽曲解説

〈失うと 知らないままで 無駄にした 日々が眩しい〉という歌詞から、「もう会えない人」を想った曲であること、そしてこれから喪失の後の風景が描かれることを予感させる。

今回の作品も、eijunのギターとペンギンラッシュの浩太郎のベース以外はDTMで制作されている。パーカッションがミディアムテンポを刻みながら、きらびやかなシンセの音が響くイントロに続き、Aメロではグロッケンのような音も印象的。また、楽曲を通じてアコースティックギターの音量は控えめだが、シンセ・ベースのエレクトリックな響きは前に出ており、リズムを強調しているアレンジが特徴的だ。

――――主人公の設定

今回の楽曲では、特に主人公のキャラクター設定を詳細に詰めたのではないかと想像した。MVやジャケットアートワークのイラストを担当したumaが描く主人公は、白いTシャツとジーンズ、ロングヘアーを一つにまとめており、1~2作目とは違い、20代の社会人にも見える。

さらに楽曲を聴いていくと、主人公の姿が脳裏に浮かぶが、歌詞は妄想・ファンタジーである。そこで男性作家であるeijunが、女性ヴォーカルに楽曲を提供する際に歌詞に説得力やリアリティを持たせることは出来るのか?という部分にも踏み込みながら、主人公の設定や感情について分析していく。

――――歌詞分析

<失うと 知らないままで/無駄にした 日々が眩しい>
なぜ失ったのかはわからないが〈君〉がいないことが伝わる始まりだ。

<時計の音がうるさくって/電池外して時を止めた>
この時、主人公はどこにいるのだろうか?眠れない夜に、アナログ時計の秒針が動く音がやけに耳に響く時がある。そのため、主人公は自宅にいるのではないか。そして、電池を外しても実際の時間は止まらないという切なさがここから感じられた。

〈下校の時の子供の声〉
これはいつ聞こえるのだろうか?下校といえば、基本的に午後から夕方にかけた平日の出来事だ。続く〈無邪気に夕暮れどきを告げる〉とあるため、主人公は平日の午後に自宅にいるのではないか。そう考えると、休みは平日または不規則な仕事なのではないかと想像した。ただ、失恋の痛みでずる休みをしたため、いつもと違う情景を描いている可能性もある。

<変わったことでいえば/ご飯がなんか適当になっちゃったことくらい>
ご飯を作るということは、一人暮らしをしていると考えられる。主人公は大学生かもしれないが、社会人である可能性が高い。

<君が好きだったラーメン屋さんの/いい匂いにつられ入ってみた/ひとりはやっぱり恥ずかしいな〉
君が好きだったと知っているということは、一緒にラーメン屋に来たことがあるのだろう。ここでは一人でラーメン屋に入ることが恥ずかしいという女性心理が描かれている。確かに一人ラーメン屋に行く女性も増えてはいるが、やはり少数派である。

〈小さな声で餃子頼む/小ライスつけちゃうぞ/おすすめなんだっけ〉
ここでは、ラーメンを頼んでいるかはわからないが
<あたし ひとりでラーメン食べちゃって>
とあるようにラーメンと餃子、さらに小ライスも注文している。主人公は学生の時は運動部に所属しており高身長、さらに現在も定期的な運動を行っており、食事摂取量が多いのかもしれない。実際にイラストの主人公は長身に見える。女性の平均身長に満たない筆者はラーメンに餃子、さらに小ライスは食べきれないボリュームであり、主人公の設定ミスではないかという疑問も浮かんだ。ただ食べきれないのに、喪失という平常心を失った状態だったため、つい注文をしてしまったという心理を表現している可能性も否めないのだ。

〈ラジオからアイドルの応援ソング〉
〈「泣くつもりなんか、なかったのにな。」〉
具体的描写はないが
〈人前で 声をあげて 泣きじゃくるわたしを ねぇ、 笑ってよ〉
と続く歌詞に、主人公は応援ソングを聴いてラーメン屋で涙を流してしまったことが推測される。

〈帰り道 髪をおろしたら 夜の空気が心地よくて〉
ロングヘアーの女性は、ラーメンを食べる時に髪の毛をまとめることが多い。だから、食べた後にまとめた髪をおろしたのか、元々まとめていた髪をおろしたのかわからないが、きっと後者であろう。髪の毛をまとめている時の方が、首元に空気が感じられるイメージがあるため、髪をおろした方が夜の空気を感じられるという部分は共感できなかった。ただ一人でラーメンを食べたり、人目を気にせず泣いてしまったり、髪をおろして歩くようなキャラではないが、喪失から来る切なさで人は容易にいつもと違う行動を取ってしまうということはあるだろう。

〈君が隣で笑いながら 髪を撫でた そんな気がしたよ〉
この曲で唯一具体的に過去を想い描いた切ない場面だ。きっとこのシーンに繋げるために髪をおろした部分もあるのだろう。

――――菅波栄純らしさ

最後に菅波栄純らしさを一番感じた歌詞を紹介する。
〈がまんする悪いクセを/あの頃みたいにさ 、ねえ叱ってよ〉
という部分だ。それはTHE BACK HORNの「いつものドアを」という曲でも
〈我慢したあなたの分だよ〉
という歌詞があるからだ。バンドで一番とも言える程の残酷な「喪失」と「切なさ」を兼ね備えた楽曲との共通点に気づきハッとしたのだ。

――まとめ

「君を、想う。」を聴いて、あなたが最初に浮かべる人は誰だろうか?と冒頭で問うた。

主人公の設定は具体的であったが、〈君〉の現在がどのような状態であるかは全く説明がなかった。連絡が取れないのか、遠くに住んでいるのか、もうこの世にいないのかということはわからない。ただ具体的な描写をしないことで、聴き手がそれぞれの〈君〉を想う気持ちに寄り添える楽曲になっているのではないか。

そして
〈晴れた日に 君を、想い、雨の音 君を、想う。/立ち止まり 君を、想い、歩き出すその先に 君を、想う。〉
というサビの歌詞が、自分が〈君〉を想う気持ちと同じように、会えなくなった人から想われているかもしれない、ということに気づくきっかけとなった。だからこそ、自分も元気でありたい。そんな気持ちを貰った楽曲だ。

七夕という「君を、想う。」ようなタイミングでのリリースこそが、「切なさ」と「喪失」を得意技としている彼らしいのではないか。THE BACK HORNのファンにも、そのエッセンスを感じ取ってほしい。



「君を、想う。 REMIX (feat. RINA)」
2021.07.21 Release

REMIXバージョンも配信リリースされている。

――追記:他のeijun曲も掲載!

eijunがリリースした「あいしてぬ」から「ゆうても曖昧だ」までの5曲の楽曲レビューが「ヂラフマガジン」で掲載されています。
https://a-girafe.com/eijun-review/



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