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小豆島の漁師たちが取り組む海の環境保全【漁業とSDGs】

昨今、話題となっている「SDGs(Sustainable Development Goals)」

SDGsという言葉があちこちで話題にあがる中で、メディアなどでフォーカスされがちなのが、「漁業者が魚をとりすぎなのでは?」という声。そんな声に、私個人としては非常に心を痛めている。

というのも、漁業者たちが、漁と並行して海の環境保全活動に取り組んでいることが、一般にはほとんど知られていないからだ。

そこで、漁業が盛んな瀬戸内海周辺エリアのうち、私が住む香川県土庄町とのしょうちょう小豆島しょうどしま豊島てしまの漁業関係者、特に、漁師さんと、多くの漁師さんが所属されている各地域の漁業協同組合(以下、漁協)が取り組まれている、海の環境保全活動について、この記事でシェアしたい。

漁業者が抱える課題とSDGs

SDGsとは?

2015年の国連サミットで2030年までの15年間の間に世界が一丸となって達成をすることを約束した、経済、社会、環境のあらゆる側面から持続可能な開発目標の実現を目指す17の目標、SDGs(Sustainable Development Goals

このSDGs、17の目標の中で14番目に掲げられているのが「海の豊かさを守ろう」である。

漁業で名を馳せた瀬戸内海の今

「瀬戸内ブルー」と親しまれ、多くの人を虜にしてきた瀬戸内海。海に浮かぶ無数の島々と空のコントラストと、透明度の高い淡いブルーの海が特徴だ。ここ、瀬戸内海は長年、豊富な魚種と漁獲量の高さで全国的にも非常に有名な漁業地域としても知られてきた。

瀬戸内海の空と海、そして、島々を望む景色
国内外のゲストを魅了してやまない
(2022年10月・豊島より撮影)

一方、私たち人間に「海がキレイになった=良い変化」として捉えられていた昨今の瀬戸内海は、以前と比べて海水や海底の養分が非常に乏しく、漁獲量も年々減少、という課題を抱えている
現在の瀬戸内海は、海の生き物にとって、決して住み良い環境とはいえないようだ。

持続可能な漁業を目指し、漁で小さすぎる魚が引っかかった場合にはリリースするなどのルールに則って漁業を行っている漁師さん。
他にも海の環境保全を目指して、地元の漁協や漁業関連機関と協力しながら、下記のような活動に取り組んでいる。

小豆島・豊島の海の豊かさを守る!漁業者の取り組み

1. 海底耕耘こううん

■実施団体
四海漁業協同組合(香川県土庄町)

■実施期間
2022年7月~9月(全10回)
※令和元年度から開始、今回で4年目。

漁師さんの漁が休みの「休漁日きゅうりょうび」に、漁船に耕耘機を設置し沖へ出航。沖で海底に沈めた耕耘機を、底曳そこびき網漁の要領で漁船でしばらく引っ張りながら、海底を耕す。

▼底曳き網漁の様子

固くなりすぎた海底や養分の乏しい水質のエリアには、漁で狙う魚やエビ、タコなどのエサになるような小さな魚たちの住処となる海藻が育ちにくいのだそう。海藻が育たないと、そもそも小さな魚たちが育たないので、漁で狙いたい魚たちのエサも少なくなってしまうという連鎖が起きる。
結果、漁獲量減少のひとつの原因に繋がるそう。

動画のように耕耘機をかけることで海底の土が攪拌され、海の養分を豊富にし、海の環境改善を目指すという取り組みが、この海底耕耘事業だ。

2. 魚礁の設置

■実施団体
土庄中央漁業協同組合 大部支所(香川県土庄町)

■設置と調査時期、魚礁タイプなど
・2013年9月 シェルナース1.3型 6基 水深7m
 調査: 設置から9年1ヶ月経過時
・2022年4月 オプション付き貝藻くん(タコ産卵)20基 水深4〜8m
 調査: 設置から約2週間経過時と6ヶ月経過時

以前、別記事としてもご紹介した魚礁設置
魚礁は、前述の海底耕耘でも触れた「小さな生き物の住処」として、また、上記写真のようなタコツボに見立てた箱付きのものは「タコの産卵の場」としての役割を担っている。

しぶきを上げて海へと沈んでゆく魚礁(上記写真参照)。
今年4月に地元漁師さんにより、漁師さんお二人で抱えられるほどのサイズ感の小型なものを20基、沖に沈設した。

魚礁カゴ部分の両脇につけられた丸い口の茶色い箱はタコツボに見立てて設置されたものこの箱に住みついたタコが産卵し、その後、孵化した小さなタコたちが蠣殻の間に入って住処にできるような設計になったタイプの魚礁だ。うまくいけば、蠣殻には小魚たちが、そして、両脇のタコツボにはタコがちゃんと住んでくれるのだという。

魚礁に生き物が住み着き産卵をすることで、それが大きな魚のエサになったり、生まれた魚やタコ自体が成長。その数を増やし、その後の漁で獲れるだけのサイズへと成長するなど、長期的に海の環境が少しずつ変わっていけばという思いから、地元漁師さんたちが試験的に魚礁を設置。

設置のみに留まらず、沈設から約2週間後と半年後の2度、調査チームによる潜水調査と引き上げ調査でその効果を検証している。
幸運にも、今年実施されたこの2度の調査に、私も特別に立ち合わせていただくことができた。

現場で見せていただいた調査の様子を広く知っていただけたらと、ご提供いただいた潜水調査動画と現場取材の様子を合わせて土庄町地域おこし協力隊公式SNS(InstagramとFacebookページ)でも情報発信したものがこちら。

▼タコつぼ付き魚礁の沈設から2週間後の調査

▼タコつぼ付き魚礁の沈設から半年後の潜水調査と引き上げ調査

同じくこのエリアには、2013年に沈設された大型の魚礁6基もあり、今回のタコツボ付き魚礁の調査と併せて9年振りに潜水調査が行われた。

2013年9月より沈設されているものと同じ型の
高さ1.9mの魚礁(シェルナース1.3型)
写真提供:海洋建設株式会社

下記の動画をご覧いただくと、キジハタ、メバル、カサゴ、マダイ、イシダイ、ウマヅラハギ、オニオコゼ、カワハギなど、沈設から9年間で様々な魚種の住処となっていることがわかる。

▼魚礁設置から9年後の潜水調査

3. タコの放流

地元漁師さんの手で1匹ずつ放流された
産卵前と思われるタコ
(2022年5月撮影)

■実施団体
土庄中央漁業協同組合 大部支所(香川県土庄町)

■実施期間
2022年5月

タコツボ付き魚礁の沈設から約1ヶ月半。
地元大部の漁師さんたちの手で、魚礁沈設エリア周辺に産卵時期直前のタコの放流が行われた。

この時、私も急遽、放流をお手伝いさせていただいた様子がこちら。

当たり前のことかもしれないが、この放流で「危機を感じたタコは本当に墨を吐く」のだと再認識。また、タコの吸盤のパワーにも驚いた。

▼魚礁設置とその後の水中調査、タコの放流まとめ記事

4. 海底に沈むゴミを撤去

海底ゴミ回収の様子
(写真:土庄中央漁業協同組合)

■実施団体
唐櫃からと漁業協同組合(香川県土庄町)
土庄中央漁業協同組合(香川県土庄町)

■実施期間
唐櫃漁協:   2022年9月29日、10月4日(2日間)
土庄中央漁協: 2022年10月3日~10月5日(3日間)

ここ数年、毎年多くの漁協で取り組まれている海底ゴミ回収事業
写真の熊手のような機具を漁船から海底に下ろし、海底耕耘と同じ要領で漁船で機具を引っ張り、海底のゴミを引っ掛けて回収していく。

この機具を海底に沈めてゴミを引っ掛ける
(写真:唐櫃漁業協同組合)
機具をロープに括って海底へ
(写真:唐櫃漁業協同組合)
漁船で機具を引っ張り、ゴミを引っ掛ける
(写真:唐櫃漁業協同組合)
プラスチックなどの漂流してきたゴミや
海底へ落ちてしまった漁具もきちんと回収
(写真:土庄中央漁業協同組合)
地元漁師さんたちが協力して回収したゴミ
(写真:土庄中央漁業協同組合)

持続可能な水産業を目指して

漁が生業である漁業者。
冒頭の通り、漁業者の仕事としては、魚を獲ることにフォーカスされがちであるが、現代の漁業者には「獲る」だけでなく「海の豊かさを守るミッション」についても期待されている

しかし残念ながら、この記事で触れた4つの取り組みは、どれも短期的に効果が明確になるものとは言い難い。長期的な継続と調査により、その成果が少しずつ明らかになるような取り組みだ。

こうした背景から、ここ1〜2年で瀬戸内海の漁業の状況が劇的に変化することは望めないが、一方で、地元の漁業関係者のみなさんや専門機関のこうしたたゆまぬ努力がなければ、現在の日本の水産業の現状維持さえ難しい状況なのではないかと、これまでこの町の漁業に関する取材を続けてきた私は個人的に感じている。

微力ながら、この記事がこうした漁業者のみなさんの取り組みや漁業の現状を広く知っていただくきっかけとなったら嬉しい。

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■取材協力
土庄中央漁業協同組合

唐櫃漁業協同組合

四海漁業協同組合
 − Webサイト
 − Instagram
 − Facebook

香川県農政水産部水産課
 − Webサイト

香川県漁業協同組合連合会
 − Webサイト

海洋建設株式会社
 − Webサイト

土庄町農林水産課
 − Webサイト

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最後まで読んでくださってありがとうございます。

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Posted by SAYULOG on Sunday, July 24, 2022

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