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理科における「個別最適な学び」とは?〜一人一実験への挑戦〜


きっかけは子どもの姿

「先生、わかったで。ノート楽しみにしててね」
 2学期に理科が大好きなAくんが一週間休むことがあった。Aくんのグループでは、Aくんがいつも中心になって理科の学習を引っ張ってくれていた。だから、私は心の中で少し不安になっていたんです。「大丈夫かな?」「Aくんがいなかったら誰が舵を切るのかな?」なんてことを思いながら、どんなかたちになっても温かく見守ろうと思っていました。
 2時間の理科の授業の終わり、Aちゃんと同じグループのBちゃんが私に声をかけてくれました。それが「先生、わかったで。ノート楽しみにしててね」だったのです。授業後にノートを見ると、今までにないくらい明確な目的をもって、実験に取り組み、結果を整理し、自分なりの考えをしっかりと表現することができていました。

子どもの姿から生まれた「問い」

 そんなBちゃんたちの姿を見て、いつもは「Aくんに付いていく子」という、与えられた役割を演じていたに過ぎなかったのだと感じました。私は、科学的な学びのための自己調整を望んでいたのにも関わらず、子どもたちはそのグループの中で自分がどう振る舞うことがより良いのかを考えながら、社会的な自己調整を行なっていたのです。

「この学びは、科学的な自己調整学習になり得ているのか」

「理科はグループで学ぶものだ」という固定観念

 Bちゃんたちの姿を見て、グループを固定することや、大人が指定することの危険性を感じた瞬間でした。もちろん、固定することの良さや、指定することの良さもあると考えてるのでそうやってきました。
 人は社会性の動物であるが故に、グループを与えられたり、属したりすると自然とその中で自分のポジションを理解し、そのポジションなりの行動を演じることになります。グループが固定化していくとその一度ハマったキャラクターを演じ続けなければならなくなります。
 自分で決めて、自分で学びをつくっていくと言いながら、結局は先生の言うことに従うのではなく、いわゆる賢いあの子の意見に従うことになってしまっていたのではないか。一人ひとりが科学的な学びの主人公になっていないのではないか。そんな疑問を抱きながら、2学期からはできる限り、一人ひとりが自分の問いをもち、自分自身で実験するデザインに変更していくことにしました。


2学期途中までの授業形態(著者作成)

理科の特性

 理科とは、少し難しく言うと、概念的である原理原則への問いを調べるために、概念を目で見えるものに置き換え、実験の結果を基に概念の世界へと再置換するものであると考えています。
 つまり、事物・現象の原理原則である性質などを問う「概念の世界」から、それを調べるために、数字や角度、色や動きなど目で見てもわかるものに置き換えをして、「具体的な世界」に飛び込むのです。
 例えば4年生の「もののあたたまり方」の単元では、「ものはどのように(温まる順番や温まっていく時の様子)温まっていくのだろうか」という大きな問いを探求していくことになります。この単元を貫く本質的な問い「熱を加えたときに、ものはどのように熱を伝えていくのだろうか」は、全員に共通する問いです。
 このようなあたたまり方の原理原則を調べるためには、目で見える世界に置き換える必要があります。どうしたらあたたまり方が見えるようになるのかを考えるのです。
 実験方法を考えるためには、根拠のある予想や仮説が必要となってきます。均一に温かくなるのか、熱されたところから順に温かくなるのか、動きながら温かくなるのか。金属の方が水より温まりやすいのか。その様々な予想を基に、それぞれが調べてみたいことを自己調整学習していくのです。
 そのため、問い→予想という問題解決の流れを、私の授業では、大きな本質的な問いに対する予想から、予想を含んだ具体的な個人の問いという予想と問いが混在するものとして扱っています。
 例えば「熱を加えたときに、ものはどのように熱を伝えていくのだろうか」という本質的な問いと、温めてみるという経験から、質的・実体的な見方を働かせた子どもは、「金属によって熱の伝わる速さが違うはずだ」と予想することになります。本質的な問いと予想をセットし「金属の種類によって、熱の伝わる速さは変わるのだろうか」という個人の探究用の問いが生まれてきます。
 この予想を含んだ具体的な問いが、自己調整学習の世界への入り口と言えます。自分の予想を科学的に証明するために、何を何に置き換えるのか。 一番シンプルなものが温度です。金属の場合は温度をサーモテープや蝋の溶ける性質に置き換え実験し、温まっていく順番や時間などを数値化していくのです。そして、その複数の数値化された結果を基に、考察においてもう一度概念の世界に戻し「金属は熱せられた部分から順に温まる」と実験で得たエピソードや実感を踏まえた概念へと精緻化していくのです。

一人一実験の理科授業をイメージして作った図(著者作成)

終わりに

 社会的な自己調整学習は非常に大切な資質・能力だと考えています。だからこそ、そこに力を入れて実践をしてきました。個別最適な学びと協働的な学びは、どちらが土台になるかでそれぞれの在り方も少しずつ変わるのだと思っています。
 子ども一人ひとりの科学的な自己調整学習に注目していくと、一人一実験の単元は本当に豊かな時間だなと感じるようになりました。実践については今後少しずつ載せていくことにします。


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