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[小児科医ママが解説] おうちで健診:「でべそ」は治る?テープで圧迫したほうがいいの?

「教えて!ドクター プロジェクト」の「乳幼児健診を知ろう!」にそって、解説させていただいている「おうちで健診」シリーズ。


今回は「臍(さい)ヘルニア」つまり「でべそ」についてです。

1ヶ月健診や、3~4ヶ月健診のころに目立ってきて、これまたよくご相談をいただきます。

テープで圧迫したほうがいいの?
いつ治るの?

そんなことについて、今回も医学的な根拠をなるべくお示ししながら、見ていきましょう。

(受診の目安や、テープ圧迫以外の治療(手術)については、次回の記事でご紹介します。)

今回の参考文献はこちら。

●UpToDate
” Care of the umbilicus and management of umbilical disorders”

●米国小児科学会AAP
“Umbilical Cord Care”

●日本小児外科学会
“臍ヘルニア”


少なくとも、20人に1人くらいはいる「でべそ」。


他人の赤ちゃんのへそを、わざわざお洋服をまくって見る機会って、ないですよね。

「うちの子、へそ飛び出してるわ」と気づいたとき、「でべその子って、ほかにどれくらいるのかしら?」というのは、気になりますよね。

報告によってバラツキはありますが、すくとも5%、つまり20人に1人くらいは、でべそなんじゃないかという報告があります。

産まれて1ヶ月未満の新生児で4%(日本医事新報 (4795): 57-58, 2016.)、その後をふくめても、産まれたお子さん全体の5~30%はでべそなんじゃないか、という数字です。
(①小児科診療 67(6): 919-924, 2004. ②Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. ③J Pediatr Surg. 2017 Jul 24.)


とくに、低出生体重児(産まれた時に2500g未満)のお子さんで多いのでは、という報告があります。(①小児科診療 67(6): 919-924, 2004.)

たとえば産まれたときに1500g未満という小さなお子さんでは、75%がでべそでは?という数字です。(Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. )

小さなお子さんで「でべそ」が多い理由の一つは、お腹の筋肉がまだ発達しきれていないから、というのがあります。

でべそ
https://michiganherniasurgery.com/about-hernias/types-of-hernias/umbilical-hernia/
より編集

とくに「でべそ」じゃないお子さんでも、へその周りのお腹の筋肉は、空いています。お腹の中にいるときに、へその緒で、お母さんと血管がつながっているからですね。

これが産まれた後に徐々にとじてくるのですが、それがなかなか閉じない。お腹の筋肉の空きが大きいまま。
そんな場合に、出っ張りがめだって「でべそ」と呼ばれます。


放置しても「1歳ころまでに80%以上」が治る


ふぎゃーと泣いたり、いきんだりすると、風船のように膨らむ様子をみて「え、これって治るの?なにかしたほうがいいの?」と思うのが親心。

大きな結論としては「放置しても、1歳ころまでに大多数が治る」というものですが、もう少し詳しく見ていきましょう。

【「でべそ」を放置したら、いつ・どれくらい治るのか】

●1歳までに80~93%、2歳までに90%が治る。
(①外来小児科 19(4): 414-415, 2016. ②日本医事新報 (4795): 57-58, 2016. ③Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. ④Arch Dis Child. 1953 Dec;28(142):450-62.)

●おそくとも、3~5歳までには、お腹の筋肉が閉じる。
(①Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. ②Surg Gynecol Obstet. 1980 Feb;150(2):187-92.)

●4歳でお腹の筋肉が1cm以上空いていた場合でも、11歳までに50%は閉じる。
(J Pediatr. 1981 Mar;98(3):415-7.)

報告によってもバラツキはありますが、1歳ころまでには80%以上は治るんじゃないか、というのが、共通したおおまかな見解です。



「でべそが大きいと、治りにくいかどうか」は賛否両論あり。


また、見た目のふくらみがボーン!と大きいと、治りにくいんじゃないか?と思いますが、それについては賛否両論あります。

まずは、でべそが大きいからって、治りにくいわけじゃなさそうだよ~、という報告。

【でべそが大きいからって、治りにくいわけじゃなさそう。という報告。】

●6mm以上でも、圧迫すれば80%が治った。
(Br Med J. 1956 Dec 1;2(5004):1286-7.)

●5mm以上で、圧迫しなくても、92.3%が治った。
(Surg Gynecol Obstet. 1963 Apr;116:469-73.)

●10mm未満と、15mm以上の場合を比べても、圧迫して治った割合は変わらなかった。
(Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8.)


次は逆に、でべそが大きいと、やはり治りにくいんじゃない?という報告。

【でべそが大きいほうが、やっぱり治りにくいかも?という報告。】

・6歳になるまでに10.9%が閉じなかった。
・その内訳として、5mm未満の場合は、96%が閉じた。
・逆に1.5cm以上の場合は、6年間で1つも閉じなかった。

(Clin Pediatr (Phila). 1967 Jan;6(1):29-32.)


・・・というわけで、でべそのサイズが大きいから、治りにくいかどうか」は決着がついていない。というのが現状です。

見た目のサイズが大きいからって、悲観する必要はない!
という安心材料になれば幸いです。

そもそも、でべそのサイズをどう測るか、も、論文によってバラバラです。

医学的にきちんと定義するならば、お子さんにたとえばお腹のエコーをして、実際におへその内側のお腹の筋肉が、何cmあいているか、という検査をする必要があります。

ただし泣きじゃくるお子さんにエコーをして、これを毎回みるのは物理的にむずかしいケースもあります。

論文によっては、単純に、見た目のでべその大きさや、しかもそれを医師の指の長さで測るなど、結構テキトーなものもあるので、評価がむずかしいというのは指摘されています。(J Pediatr Surg. 2017 Jul 24.)


「テープ圧迫」は、生後6ヶ月未満ならしてもいいかも。でも効果の程度や、お肌トラブルのことを考えると、ムリしなくてOK。


「おへそ出てるね~じゃあテープとかでおさえてみてね」って言われたんですけど、やったほうがいいですか?というご質問も、よくいただきます。

結論からいえば「生後6ヶ月未満なら、テープ圧迫はトライしてみてもOK。でもムリしなくていよ。」ということです。

というのも、たしかにテープ圧迫することで、早く治るのではというデータもある一方で、お肌トラブルも起こりうること、また最終的な成功率はテープ圧迫しようがしまいが変わらないのでは、という見解もあるからです。


まずは、テープ圧迫したほうが、早く治るかもという報告

【テープ圧迫すると早く治るかも。という報告。】

●テープ圧迫法の全体の治癒率は、87~99%。
●圧迫を開始して90日で、94.6%が治る。

●生後6か月未満で、圧迫を開始すれば、99.1%が治る。
(日本医事新報 (4795): 57-58, 2016.)

●生後12ヶ月未満で圧迫を開始すると、開始して2~13週間で、 91%が治った。テープ圧迫をしたほうが(①)、経過観察しているよりも(②)、早く治った。
※お腹のあいた筋肉が閉じる速度(1週間あたり)①2.59mm ②0.37 mm
※治るまでの期間 ①5.29週間 ②35.6週間
(①小児科診療 67(6): 919-924, 2004. ②Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8.)

上に書いたほかにも「圧迫しておいたほうが、治った(おへそが凹んだ)ときの皮のたるみが少なくて、見た目よく治るのでは」という説もあります。

が、これについては医学的に明らかに証明されたわけでもなく、個人差も大きいので、評価がむずかしいです。

次は逆に、テープ圧迫しても治りにくい場合もある・皮膚トラブルもあるよ、という報告

【テープ圧迫しても、治りにくい場合もある。皮膚トラブルもある。】

生後7か月以後でテープ圧迫を開始すると、(生後7ヶ月未満で圧迫を開始した場合とくらべて)治りが遅くなる傾向がある。
(外来小児科 19(4): 414-415, 2016.)

●圧迫したほうが、治るスピードは早いが、最終的に治る割合は、関係なさそう。
(Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. )

テープ圧迫のデメリットは、皮膚トラブルが起きうること。
・皮膚トラブルは全体の23.6%で見られた。
・じゅくじゅくしたり、膿が出たりといった理由で、完全にテープ圧迫を中止しなくてはいけなくなったケースは、全体の5.6%で見られた。
(Pediatr Int. 2016 May;58(5):363-8. )

皮膚に貼るテープなど、医療用品もかなり改善・開発がすすみ、数十年前とくらべると、格段に皮膚トラブルの割合も減っていると言われています。

が、そもそも赤ちゃんのお肌は薄く・バリアも弱く、皮膚トラブルがおきやすいもの。皮膚って目に見えるから、ちょっとした変化が不安になりますよね。

というわけで、お母さんもお子さんも、無理なくつづけられそうなら、ぜひテープ圧迫はしてOKです。

が、お母さんもちょっと面倒になってきちゃったなー。お子さんとしても、別に膿とかジュクジュクはないけど、赤みも目立つし・もともと肌弱そうだし、なんかこのまま続けるのやだなー。

そう思ってつらかったら、ムリして続けなくてもいいんじゃない?というニュアンスです。

なおテープの貼り替えについては、もし皮膚トラブルがなければ、次にはがれるまで貼ったまま、でOKです。
テープの交換回数が多いほど、逆に皮膚炎の報告もあるので、はがれなければ4週間貼りっぱなし、としている医療機関もあります。


いかがでしょうか。
でべそについて、ちょっと詳しく見てみました。

今回のポイントをまとめておきましょう。

●でべそは赤ちゃん全体の、少なくとも5%、よくみられる状態。
●様子を見ていても、1歳ころまでに80%以上は治る。
テープ圧迫は、生後6ヶ月未満に始めると、治りが早い可能性はあり。
でも皮膚トラブルもあるし、治る割合は変わらないという報告も。親子ともども無理せず。


次回は、
でべそで受診をする目安はあるのか。
テープ圧迫していたけど・様子を見ていたけど、治らない場合はどうするのか。

そういった点を紹介していきます。

(この記事は、2023年2月4日に改訂しました。)

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