見出し画像

【15冊分】ぶっくめも 2024年1月〜3月

2024年に入ってからは、お薦めしてもらった本や、読もうと思ってたけど読めてなかった本を読むことが多く、伊坂幸太郎を読み続けていた去年と比べるとバリエーションに富んだ本との出会いがあった3ヶ月だった。

今回も本の感想を書き記していく。
(★は「また読みたいか」を独断と偏見により記したものですのでお気になさらず。)


一九八四年:ジョージ オーウェル

★★★☆☆
全体主義国家によって統治された世界を描くディストピアSF。SFの代表作の1つなので読んでみたが、全体的に話が難しかったのが1番の印象。
この本で感じたことは、意味を複数持つ言葉を使い語彙を減らすことが、思考の範囲を狭めることにつながるということだった。例えば「少し」という言葉のグラデーションを表す役割の「ほんの」「ちょっと」「やや」や、少ないことを表す「わずかに」「微妙に」などの言葉を制限して、すべて「少し」という言葉で統一すると、人は「少しの中でもどのくらいの少しだろう?」という考えを持たなくなるので、「どのくらい少しか?」を考える機会がなくなるという具合だ。この1984年の本では当局により思考を制限するために【ニュースピーク語】を浸透させる様子が出てきていて、言論の統制=思考の統制なのだという気づきを得た。
また、国家が全体主義的に国民の自由を統制する様子は、なんだかSNSによって互いが互いを監視する今の社会を描いているような気がした。背筋が伸びる。

これが生活なのかしらん:小原 晩

★★★☆☆
会社のインターン生に借りて読んだ。何か月ぷっつりと途切れてしまう危うさが垣間見えながらも、日常を淡々と送っていく様子が描かれた一冊。
突然何かが終わる、という描写がリアルに書かれていて、その情景を描くことに長けてる作家さんだと思った。また、自分は食べ物をリアルに美味しそうに描ける方を心から尊敬しているのだが、小原さんはご飯の描写がリアルで魅力的だったので、以下の表現と出会えてよかったと思う。

赤ん坊の二の腕のようにふっくらまあるい塩バターパン
わた毛が舞うように頼りなく、ふわっふわっとバターの甘い匂いがする

塩バターパンの説明

どう生きるか つらかったときの話をしよう 自分らしく生きていくために必要な22のこと:野口 聡一

★★★★☆
【幸せとは、自分で自分の価値や生きる方向性を決め、行動すること】だと教えてくれた一冊。
元宇宙飛行士の野口さんが宇宙飛行2回目後の10年間で感じた苦しみを元に、幸せとはなにか、幸せになるためにどんな考え方が必要かを書いた自叙伝。

最近ぼやっと、「自分とはどんな存在か」を示すときに他者(自分がコントロールできないもの)を含めるようなコントロールできない要素が多いほどその存在のあり方は脆くなるのではないか、と感じていたので、自分が感じていたことを的確な言葉で言語化してくれているようで読むタイミングが良かった。

自分らしい、充足した人生を送るためには、自分としっかり向き合い、自分1人でアイデンティティを築き、どう生きるかの方向性や目標、果たすべきミッションを自分で決めなければならない。

自分がどう生きれば幸せでいられるか、その答えは自分の中にあり、自分の足の向く方へ歩いていけばいい

体験は時間と共に成熟していく。

欠乏欲求が全て満たされた状態、つまり食欲など生理的な欲求が満たされ、安心や他者との繋がりが感じられ、十分に他者や自分から承認を得られている状態でも、「自分に適していること」をしない限り、人は真の満足感、幸福感を得られず新しい不満が出てくる。

記憶に残った文の一部

消滅世界:村田 沙耶香

★★★☆☆
人同士が子供を産む際に人工授精が当たり前になり、性行為は近親相姦だと認識されるようになった社会で、性行為で生まれた主人公が結婚して家族を持つ中での性に対する心のあり様や葛藤を描いた話。

普通、正常とは何か、異常とは何かを考えるきっかけになった一冊。時代の流れや周りによって絶えず私たちは影響し合い、影響され合っていて、なんとなくの共通認識を信じることが正常、その枠組みから外れることが異常なのかなと思う。

地球星人:村田 沙耶香

★★★★☆
ただ目的もなく、子孫繁栄という動物的な側面のために人間は生き続けなければならないということを、「人間工場」と表し、この人間工場の世界から逸脱した世界で生きていこうとする3人を描いた作品。

「世界消滅」の作者である村田沙耶香さんのお話で、ここでも常識とは何かが問われている様に感じた。

信仰:村田 沙耶香

★★★★☆
8つの短編小説からなり、本のタイトルにもある「信仰」を読みたくて購入。特に印象に残った作品は、「信仰」「生存」「気持ちよさという罪」「書かなかった小説」の四つ。
「信仰」は、無宗教と呼ばれる日本人である私たちも、「このブランドっていいよね!欲しい!」と物に付加価値とやらを感じるように、何かを必ず信仰していること、そして何かを信仰していることが生きやすい世の中なのだということを感じた。

「生存」は、お金や学力、社会的なステータスが人間の生存率として数字で現れる世界で、生存率がある%をきると「野人」として人間社会から離れた山で生活して野生化していく主人公を描いた作品。
最も村田さんらしさを感じていたのだが、それはおそらく「生活の仕方や考えの前提が違いすぎても、違う両者を同じ生物だと見做せるのか?(いや、見做せないのではないか?)」という問いや答えらしきものを感じたからの様に思う。

「気持ちよさという罪」は、多様性について書かれた村田さんのエッセイ。

笑われて、キャラクター化されて、ラベリングされること。奇妙な人を奇妙なまま愛し、多様性を認めること。この二つは、ものすごく相反することのはずなのに、馬鹿な私には区別が付かなかった。

気持ちよさの罪

というフレーズが深い。深くて、まだ消化できていない。この意味を理解できる様になりたい。

「書かなかった小説」は、ルンバを購入する様に自分のクローンを4体購入した主人公の末路を描いた作品。この前、日本科学未来館に行った際に「いつかはAIが人間の欲望を先回りして、欲望を満たし続ける様に人間を誘う」みたいな動画が流れていて、その未来を想像していたのだが、おそらく自分の複製を持って生きることはこの欲望を満たしやすくなることと似ている気がした。そして、その未来はちょっとぞっとする。

タダイマトビラ:村田 沙耶香

★★☆☆☆
同時期に村田沙耶香さんの本を読んだり、普通と正常、多様性について考えた結果、お腹いっぱいになりあまり内容や感想を覚えてない。家族とは何かということを問いかける作品だった。

ナナメの夕暮れ:若林 正恭

★★★★★
彼のエッセイを一つ一つ読む中で、こんなにも苦しみ、もがき、日々自分と向き合ったのかということがありありと伝わり、それが昔の自分と重なり、めちゃくちゃ共感しながら読んでいた。何度でも読みたい。そして、テレビやラジオで活躍する彼を心ばかりではあるが応援したいと思った。

凍える手に登場する、

絶望に対するセイフティネットとして、趣味は必要である。そう確信している。

は本当に共感しっぱなしだったし、

ナナメの殺し方の

だけど、どうしても今回の生で世界を肯定してみたかった。


というフレーズもとっても心に残った。

キネマの神様:原田 マハ

★★★★★
映画好きの父と娘が父の映画日誌をきっかけに、映画と向き合い、家族と向き合い、色んな人たちと絆を紡いでいく作品。ゴウとローズバッド、お父さん(ゴウ)と娘(歩)、ゴウとテラシン、歩と新村、ばるたんと新村などなど。映画とゴウと歩の家族を中心に生まれたあらゆる絆と、映画にかける様々な人の情熱を存分に感じられて、最後の10ページは電車で読みながら涙が止まらなかった。ゴウの映画を全力で肯定する姿勢にグッときた。

香君(上)(下):上橋 菜穂子

★★★★☆
高校の現代文の先生から教えてもらった本。上橋さんならではの壮大な世界観が存分に味わえる作品だったし、精霊の守り人シリーズや獣の奏者シリーズと比べて、植物や虫などの自然界が出す香りがテーマだったからこそ、情景が鮮やかで爽やかに感じられた。また、上橋さんが描かれる世界観が壮大だからこそ、とんでもなく長編作品が多かったりするが、香君は上下巻なので初めて上橋さんの本を読む方におすすめ。

本日は、お日柄もよく:原田 マハ

★★★★☆
言葉で人の心を動かすことがいかに難しく、だからこそいかに尊いのかを目の当たりにした。
作風としては、政治や言葉をテーマにキャラが立つ登場人物が何人か登場して、一つのことにみなで情熱を注ぐ、というものだったので、原田マハさんの「総理の夫」や三浦しをんさんの【舟を編む】に似ていた。こと葉とワダカマの関係性が好きだった。

困難に向かい合ったとき、もうだめだ、と思ったとき、想像してみるといい。
三時間後の君、涙がとまっている。二十四時間後の君、涙は乾いている。二日後の君、顔をあげている。三日後の君、歩き出している。

この言葉を心に留めておいて、挫けそうになった時に読みたい。

ジェノサイド(上)(下):高野 和明

★★★★★
新人類vs人類の戦いを、日本、コンゴ共和国、アメリカの3拠点から描いたSF?小説。一見繋がらないように見える各拠点での動きがあれよあれよと繋がっていき、完結するストーリーが圧巻だった。アクションシーンあり、伏線回収ありのストーリー(伊坂幸太郎のゴールデンスランバーとか)が好きな人は好きだと思う。

3652 : 伊坂幸太郎

★★★★★
大好きな作者のエッセイは、小説と違った意味でいい。
小説では、漠然としたテーマとか作者の意図が作品に込められていて、それを読み手の想像力によって解釈したり再編集して受け取るという良さがあるし、
エッセイの場合は、よりストレートにその人が考えていることとか、昔のことが少し緩く、それが普段のようにリアルに伝わってくるという良さがあるなあと再確認した。

読んですぐに、「読み終わりたくない」と思った。
そのくらい、一つ一つのエッセイを読む瞬間に心躍り、幸せだった。

さいごに

最近、1ヶ月に1冊小説チャレンジをしている母に原田マハさんの「夏を喪くす」を読んでもらったのだが、母の感想は「前向な気持ちになれるね」
私は「絶望感を感じて人間の業の深さを感じるね」
と真逆だったことに驚いた。

ふと「夏を喪くす」の作品を振り返ってみると、面白さやストーリー重視の作品ではなく、登場人物の心情や状況の表し方に心血注ぎ込まれたような作品で、娯楽小説や大衆小説よりは純文学に近い作品のように感じる。

また、面白さにふらず本から感じることを読者に委ねる余白の多い作品だったからか、読者の経験値や考え方が感想に反映されるのだと気づいたので、こういう「面白さにふらず」「捉え方の余白がある」ような作品は、期間を置いて定期的に読むことで面白みが増していくのではないか、と思った。

あとは、村田沙耶香さんの本を立て続けに読んでみて、「ストーリーとか内容はあまり好みではないが、めちゃくちゃ考えさせられる」ような作品もあることを知った。

何事も選り好みし過ぎずに体験し続けて、血肉にしていきたい。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?