【図解】"伊坂幸太郎らしさ"から読み解く、伊坂幸太郎長編小説29作品の全体像
私は伊坂幸太郎の小説がとても好きである。
今年のはじめに、「もうすぐ死ぬとしたら何に後悔するだろうか…」と考えてみたところ、「伊坂幸太郎の全作品を全て読み切らなかったことに後悔する」と思い、それから8ヶ月ほどかけてほぼ全ての長編作品を読んでみた。
そうしたところ、作品ごとに”伊坂幸太郎らしさ”が違く、”らしさ”ごとに違いを整理したくなったので、
今回は図解で伊坂幸太郎の全長編作品29作品を整理しつつ、「これから伊坂幸太郎の小説を読む人に向けた選び方」を紹介しようと思う。
結局、伊坂幸太郎らしさとはなんだったのか
伊坂幸太郎とは、ミステリーをはじめとする推理小説を主とする小説家である。
伊坂幸太郎の全長編小説を読むまでは、「伊坂幸太郎=小説の中にとても鮮やかな伏線回収を用意する作家」だと思っていたのだが、今、私が考える「伊坂幸太郎らしさ」とは以下の5つである。
なお、1つの小説につき⑤を除く①〜④の全て揃ったものが伊坂幸太郎らしさである、というよりは、①または②があることを前提に、+αの形で③、④の要素が足される印象である。
次からは「伊坂幸太郎らしさ」である上記の①〜④、⑤のそれぞれの切り口から小説ごとの特徴を整理する。
伊坂幸太郎の小説を選ぶ際には、以下の2つの立ち位置から選んでみることが良いだろう。
象限でみる各作品の立ち位置
まず"伊坂幸太郎らしさ"の①〜④の切り口で作品を紹介する。
分類した29作品の全体像は以下である。
※なお、本当は現時点までの長編小説は30作品なのだが、【実験4号】だけ入手できておらず、以下の紹介ではスキップするので悪しからず。
※今回は長編作品のみとなるので、その点も悪しからず。
前提として、①〜④の切り口の関係性としては「①メッセージ性と②伏線回収 が対照、③壮大な世界観と④登場人物の目立ったキャラクター性 が対照」という関係だ。
※もちろん①と②、③と④が両立することもあるのだが、どちらかの要素に濃淡をつけられる印象が多いため、対照関係として考えることとする。
そのため、立ち位置を決めるにあたり縦・横軸を以下として設定している。
以下では次の3つのエリアごとに
・作品一覧
・感じやすい伊坂幸太郎らしさ
・作品の特徴
の3つを説明する。
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【上エリア:巨大な敵と対峙する、戦うより逃げろ系作品】
・作品一覧
・感じやすい伊坂幸太郎らしさ
・作品の特徴
自分の力ではどうすることもできないほどの巨大な敵と戦う作風のため、とんでもなく作品の世界観が壮大である。
戦う敵が「国家、警察、システム」などと抽象的であるため、戦う相手が誰なのかが主人公でさえわからないという状況が生まれやすく、作品に「巨大な敵とは対峙せずに逃げろ」という意味合いが込められていることが多い。そのため、鮮やかな伏線回収は次に説明する【左下エリア】よりやや劣ることがあるものの、巨大な敵と対峙した時の絶望するほどの窮地をいかに切り抜けるのか、という点を壮大な世界観とともに堪能できる作品たちだ。
とにかく話のスケールの大きさを楽しみたい方にお勧め。
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【左下エリア:仲間と協力し、見事に事件を解決する系作品】
・作品一覧
・感じやすい伊坂幸太郎らしさ
・作品の特徴
仲間と協力して事件を解決するという作品たちであり、伊坂幸太郎の最も王道だと言える作品たちである。
また、対峙する敵が【上エリア】の作品たちよりも具体的なので「仲間とどう協力するか・敵にどう勝つのか」という視点に、ふんだんに伏線が散りばめられていることが多く、特に左側に行くほど伏線回収を楽しめるので、伊坂幸太郎作品を初めて読むとっかかりとしやすい。
さらに、対峙する敵が具体的であることから、登場人物がはっきりとわかるため、敵味方問わず登場人物のキャラクター性を楽しめる点もお勧めポイントである。個性豊かなギャングやヤクザ、殺し屋などが頻出する。
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【右下エリア:作品のメッセージ性が強く、心が動く系作品】
・作品一覧
・感じやすい伊坂幸太郎らしさ
・作品の特徴
【上エリア】【左下エリア】と比べて、"事件の解決よりも読者に何か大切なメッセージを伝える"、ということに焦点が当てられているためか、メッセージ性を感じやすく、心が動きやすい作風に思う。
また、【左下エリア】同様に対峙する敵が具体的であることから、登場人物のキャラクター性を楽しめるのだが、【左下エリア】よりも登場人物同士の関係性が「家族・友人・兄弟・夫婦」などと仲間を超えた絆を持っていることが多く、キャラクター同士の絆にも心動かされる。個別具体的になってしまうが、家族の愛や家族の在り方をテーマにした作品が好きな方には「重力ピエロ」が、青春時代の友情や懐かしさを感じたい方・大学4年生には「砂漠」がおすすめである。
作品同士の繋がりでみる各作品の立ち位置
次に、伊坂幸太郎らしさの "⑤作品同士に繋がりがあること" から作品を整理する。
というのも、伊坂幸太郎の小説ではよく、「この作品に出ていたAさんが別の作品にさらっと登場する」という、作品同士が繋がっていたり続編に見えない作品が実は続編として描かれていた、なんてことが日常茶飯事なのだ。
そのため、作品ごとの繋がりを理解し、できるだけ登場頻度が高いような要となる作品から読むことが、個人的にはとてもおすすめである。
特に、伊坂幸太郎デビュー作である【オーデュボンの祈り】で出てくる”田中”と【ラッシュライフ】で出てくる”黒澤”は、他作品でもよく出てくるので、この2作品は初めの方に読んでおくと他を読んだ際に作品同士の繋がりを感じやすい。
また、続編の作品は以下の順番で読むことを強くおすすめする。
初めての方向け:作品を選ぶ際の注意点
ここまでご紹介した2つの各作品の立ち位置から、自分にあった小説を選んでみてほしいが、「初めて伊坂幸太郎の作品を読んでみる」という方には、個人的に以下のオレンジ色の領域にある作品を選ぶ事を強くおすすめする。
というのも、オレンジ色の領域に入っている方が「伊坂幸太郎らしさ」を感じやすいからである。
特に縦軸では、下に行くほど対峙する敵が”自分”であるとか、”いない”という「もはや推理小説ではない」という作品がいくつかあるので、下の赤線より上の小説を選ぶことをおすすめする。
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なお、最後になるが、初めて伊坂幸太郎の作品を読む方に向けて個人的におすすめする作品は、以下の8作品である。おすすめの理由は象限ごとの"伊坂幸太郎らしさ"が感じやすいことに尽きるので、割愛させていただく。
さいごに
ここまで読み進めていただき、ありがとうございました。
本当は各作品についてもう少し語りたいところなのですが、いつもの感想のように取り止めがなくなるため、最後に3つほど、伊坂幸太郎の小説の中から好きなフレーズを紹介します。
小説に出てくるふとしたフレーズや登場人物の存在に支えられたり、救われたり、自分のモヤモヤが的確に言語化されていたり。
そういう、言葉や登場人物とのかけがえのない出会いをしていくこと、そしてその出会いを通して自分を見つめることが、小説を読むということなのではないかと思います。
このnoteが少しでも伊坂幸太郎の小説を読むきっかけになってくれたとしたら、この上なく嬉しいです。
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