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ひとまず夏の終わり

8月も終わろうかというのに、まだスイカを食べていないなと思って、これはぜひ食べなくてはとスーパーに行った。
時間帯が良かったのか、丁度半額になっていたので手に取ったけど、ずっしりと重くて一人で食べきれる量なのか不安になった。目に入ってすぐ手に取ったので厚さを確認していなかったのだ。でも店員さんが横にいるのもあり、一度手に取ったものを元に戻すことに気が引けたので買うことにした。
近くに住んでる父に半分あげようかなと思ったけど、今日は「ダディ・ロング・レッグズ」の配信を見る予定で、実家に寄る時間はないなと思い、ちょっとの勝手な罪悪感を抱きながら、これまた勝手ながら独り占めすることに。

「ダディ・ロング・レッグズ」はジーン・ウェブスター原作『あしながおじさん』をミュージカル化したもので、去年その存在を知ったのだけど、知った頃にはもう遅くて、チケットなど手に入らず、見たかったな…と心に残っていた。
それを一年越しに観ることができた。これがもうすごく良かった。
主演は井上芳雄と上白石萌音で、二人芝居だ。
久しぶりに舞台を見たけど、すごい「芝居!」という感じだった。映画やドラマだって俳優さんたちはお芝居をしているのだけど、舞台ほどその芝居感を感じることはない。配信で見たから、映画とかドラマとかのように映像な訳で、でもそのいい意味で現実感のない声の出し方とか身振り手振りに魅せられた。現実にこんな人がいたらわざとらしくて、おかしな人なんだけど、舞台上で見るとそれが迫力があって「人間」を感じるのだから面白い。

原作が好きなのもあって、この配信を知った時には「絶対面白い!」と思ってすぐに見ることを決めた。なので二人芝居だということも知らずに見始めた。だからどうやら二人しか出てこないぞ、と気づいた時には、ものすごいことしてるな、とおののいてしまった。三時間近く二人でずっとセリフを言って歌って、どんだけ体力があるんだろう。配信で見てるから二人の表情もよく見えて、二人とも役になりきっているのがわかる。これは精神力も相当なものだ。役者さんって本当にすごい。

直感で見ることを決めたものだから、この舞台がもう10年近くも続いていて、いつもは井上芳雄と坂本真綾の二人なんだけど、今年だけ坂本真綾が出産したこともあり、上白石萌音であることも終演後に知った。それまで、去年は坂本真綾だったけど、今年は上白石萌音なんだーと思ってた。何も知らなすぎる…。
坂本真綾のジルーシャも観たいなとなったけど、今回だけかもしれない貴重な上白石萌音ジルーシャが見れて良かった。
上白石萌音はドラマをいくつか見たことあったけど、今回で完全に好きになってしまった。
孤児院で育ち教養を育む機会に恵まれず無知だった子供から、教養を身につけ深く豊かな内面を育み自分で人生を切り開いていける大人になるまでのグラデーションが見事だった。
大学に入りたての頃は、自分は同級生と比べて知識も教養もなくて恥をかくばかりで、「他の子みたいになりたい、あの子になりたい」って言っていたのに、第二幕(二年生になって?)では色んなことを学んで自信を持ち「あれにもなれる、これにもなれる」って言っていたのがすごい良かった。

恵まれていた子と自分を比べて自分が惨めに思えて、でもそこで諦めたりくじけたりひねくれたりせずに、ひたむきに勉強し続けて自信を育てていくうちに、さらに具体的な目標ができて、そこへ向かってまた努力を続けるって、ものすごく健全で見ている側も前向きな気持ちになる。

でも頭の片隅にひっそりと、この間ツイッターで燃えてた「お金では買えない経験がある」って出自が恵まれている社長が言ってたやつを思い出してしまった。
ジルーシャが孤児院育ちなのに大学行けて色んな経験できたのも、お金持ちなあしながおじさんが援助してくれたからだもんな…なんて思ってしまって。つらい。

お金のあるなしや援助の話でいうと、ジャーヴィスの援助する側の孤独を歌ったところもぐっときた。援助する側される側には「感謝」という壁があって、そこを乗り越えることはできないというところ、孤独と苦悩がとても伝わってきた。ジャーヴィスが孤児を援助するのは、ジルーシャが初めてではないことは言葉の端々からわかるし、そうした壁を感じ孤独を味わったのも今回が初めてではないのだろう。それでも援助を続けるのはお金を持っている側の罪悪感もあるんだろうな。
ジャーヴィスはお金持ちのペンドルトン一家の中でも浮いていて変わり者扱いをされていて、他の一族は財力を謳歌しているのに、ジャーヴィスはそこに馴染めてない。
お金を持っていることに罪悪があって、お金を持ってる側に馴染めなくて、お金がない孤児に援助しているけど、その人達の間には「感謝」の壁という乗り越えられない壁がある。孤独だ。

こうしたジャーヴィスの孤独は原作には書いてない。原作はジルーシャの手紙だけで構成されているから。
この舞台ならではのシャーヴィスがすごーく良かった。

あー面白かったな。原作も読み返したい。いつか生でも観たい。きっと来年もやってくれるよね。チケット取れるかな。観たいな。
舞台ってすごい役者さんってすごい。
最後の最後にいい夏の思い出ができた。

アーカイブ配信もあって、まだ観れるようなので、ご興味ある方はぜひっ。



『あしながおじさん』とか『赤毛のアン』『ジェイン・エア』孤児が主人公な小説についてあれこれ書いてます。
孤児それぞれの武器、それぞれの処世術について。天真爛漫だけが全てじゃないぞということについて。

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