『ガム』

2019年2月13日の作品です。
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『ガム』
 
 ガムを噛み続ける長さは時々、恋人と別れるまでの長さと関係しているといわれる。僕の彼女は僕よりも10分も20分も早くガムを口から出す。僕は地面を這う虫の集団を何時間も眺めていることが好きだった。しかし虫は嫌いだ。
ガムを噛み続ける長さは恋人と別れるまでの長さと関係しているらしい。僕は彼女からひと時も離れたことがない。僕はそこにある大切なものをけがされているようで、虫は嫌いだった。でも僕には虫さえも殺すことができなかった。だからきっと虫を見ているのが好きだったのではない。虫に僕の大切なものを奪われないように見張っているのが好きだったのだ。彼女は僕に似てきてガムを噛み続けるようになった。僕も君からもらったガムを今日も明日も噛み続ける。
僕はガムを噛み続ける長さは恋人と別れるまでの長さと関係していると思う。僕も僕の彼女も噛み続けているからだ。僕たちは別れない。絶対に。
僕は君の笑顔が好きだ。僕はあの日君に恋をした。コンビニ店員だった君は客の僕に笑いかけた。僕は本当に恋に落ちた。その日から毎日そのコンビニに行った。君はいつも笑顔だった。僕はガムを買った。君のレジで。君がコンビニで働かない日も僕はこれで君を思い浮かべた。幸せだった。君からもらったガム。僕は噛み続けた。
「ガムを噛み続ける長さは恋人と別れるまでの長さと関係しているらしい。」は彼女のコンビニにおいてあったガムの広告の謳い文句だ。

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