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【1989年100日旅】40日目。モスクワ

1989年5月15日、旅は40日目。父の知人のロシア人医師の家へ。ランチに招待されたのだけれど、待てど暮らせど大人たちは話すばかりで食事にならない。出された濃い紅茶をちびちび飲むが、お茶に砂糖もジャムもミルクも使わない家で喉がひりつき、空きっ腹にしみて冷や汗が出た。顔色の悪さに医師が気づく。

医師は心配して、急遽診察してくれることになってしまった。熱や血圧を測ったり瞳孔や喉を見たりと真剣で、とても「お腹が空いた」とは言い出せない。入院でもさせられたらどうしよう、ソ連の技術力をもってしても空腹は見抜けないのかなどと考えながら、清潔なベッドに寝かせられていた。

医師の機器は、体温計は水銀、血圧計は手動と全てアナログ。日本の家庭にはすでにデジタル体温計があったし、病院でも血圧計はデジタルで、それに見慣れていたから、ソ連は遅れていると思った。でも後年、水銀の体温計、手動の血圧計のほうが精度が高いと知った。ソ連は入院費も含めて医療費が無料だったらしい。無料だからと気軽に入院させられなくてよかった。

ソ連崩壊後もロシアの医療費は無料らしいけれど、薬は有料になり、質の高い医療は高額な私立病院でしか受けられなくなったそうだ。ソ連時代には街中にきらびやかな「商品」はなかったけれど、必要な物はなんとなく手に入っていたとも聞く。当時は共産主義はダメだなと子供心に思っていたけれど、今になると資本主義化して本当に豊かになったのか、人々が幸せになったのかは、わからないなと思う。

そんな感じの40日目。旅は残り60日。

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