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【太陽の城 月の砦】★後追い実況&現場レポ 7~10回


中村小夜の実況レポ、続きです!
ヘッダーの絵はみかさのさん@kasago_yuuです(第9回のイメージです)。
7回~10回のキャストの皆さんはこちら。クライマックスになるにつれて人がどんどん死んでいくのは、歴史ものあるあるですね。

アーミナ(華優希さん) 
ユーセフ(上口耕平さん) 
マフムード(横田栄司さん) 
シリーン(彩吹真央さん) 
フェイルーズ(桜咲彩花さん)
ファーディル(藤岡正明さん)
ザイド(横山賀三さん)
カラクーシュ(山賀教弘さん)
エルサレム王(山賀教弘さん)
シリアの将軍(高松潤さん×山賀教弘さん)
アサシン(高松潤さん)
カラクーシュに斬られそうになる少年(竹下天馬さん)

第7回 剣なき戦い

第一学習社/世界史図表より

後追い実況⑦

今日はエルサレム王も出てきたし、ちょっとヨーロッパも含めた広域地図を貼っときます。舞台となっているシリアとエジプトは世界地図の中ではこういう位置関係。このイスラーム版図の中にエルサレム王国がくさびのように突き刺さってる状態です(それ以外にも十字軍はアッカとアスカラーン、トリポリなど、沿岸都市を押さえていたけれど今回は省略)。

いきなり不穏な牢獄から始まりました。そこを訪れるシリーンとファーディル。ちなみに、シリーンの靴はかかとなしのサンダル状態で、ファーディルの靴はかかとありにしてねって、またもや音響さんに面倒なことをお願いしたのは私ですすみませんm(__)m

「サラーフッディーン……知らない人の名前みたいね」と言う華アーミナ様の冷たい声の響きがもう最高〜! 登場の頃の、怖いもの知らずのはつらつとした声からのギャップにぞくぞくします。

ファーディルが持ちかけたサラーフッディーンの婚約の申し出に対し、「今はそれしかここを出る方法がない。私はダマスカスの花嫁としてこの町を守らなければ。それに私のマドラサ! あの子達の居場所を守り抜くために!」というアーミナの静かな決意がカット(尺の関係)。なぜ複雑な思いを抱えつつもあっさり承諾したのか、わかりづらかったかな……すみません。

ヌールッディーン亡き後、一気に勢力図が崩れたシリアでは、各地で十字軍の動きが活発になります。ここでアーミナが交渉してエルサレム軍を撤退させたというのは後世の史料にありますが、ちょっと伝説レベルの話かな~という気もします。でもせっかくなので、エルサレムのアモーリー王に登場してもらって言葉のバトルシーンにしました。もちろん通訳を介しています。

そしてみなさん大好き💛フェイルーズタイムふたたび! 仲直りしたからって急にいい人になるんじゃなくて、気位の高さを残している桜咲さんの声、素敵ですね〜 。フェイルーズが生んだマフムードの世継ぎは幼名イスマーイールですが、ここでは成人後の(アル=)サーリフにしています。

あ! あと、みなさん! 気づきました? サラーフッディーンが初めてファーディルのことを「おまえ」🩷って呼んだんですよ。今まではファーディルの方がユーセフより3つ年上だし、遠征先の王朝の高官だったからあなた呼びしていたのに、ここではじめて名実ともに主従になった瞬間です。

現場レポ⑦

6話でマフムード王がお亡くなりになられたので、横田栄司さんがお帰りになる前に、ここで宣伝用の写真を撮影。前半で亡くなったシールクーフ役の酒匂芳さんが入らなかったのは残念ですが……。
華アーミナ様を後ろから見守る上口ユーセフくんと横田マフムード様。後ろの方では敵対したり相反したりしている勢力の皆様が仲良く取り囲んで、物語の配置そのまま! みなさん仲がよくて和気あいあいとした雰囲気です。
華優希さんのワンピがお美しい。ラフな感じの黒髪も自然な雰囲気でいいですね~。隠しきれないオーラを放つ存在感もすごいのですけど、そのオーラを消してふんわり自然体でいられるのもまたすごいと思うんですよね。

NHK FM青春アドベンチャーHPより
(掲載期間が過ぎたら削除します)

第8回 黒の花嫁

L'Art du Costume de l'Arabie

後追い実況⑧

ユーセフ君受難の日(二人の婚礼の日)は、西暦換算で1176年9月8〜10日。歴史上は政治的な結婚ですから記録がちゃんと残っています。「黒」はイスラームの世界では必ずしも喪の色ではありませんが、どんな意味をこめるかは皆さんにお任せします。

上口耕平さんの「たわむれ」の長台詞は一発OKで誰も何も言えず。かすかな息遣いや声の揺れがラジオで聴くと余計に胸に来ますね。それを受けて思わず「ユーセフ!」という禁断の本名を口にする華アーミナ様。そのたった一言にこめられた思い。今までの不安と悲しみと憎しみを抱えてきた気持ちが解放された瞬間でした。ほんとにこのシーンをお二人にやっていただけてよかった……! 

しかし凱旋パレードの時のカラクーシュ、もう山賀教弘さんがどんどん弾けていっておもしろ。完全に声裏返っちゃってるし。さすがアイユーブ朝のトリックスター(と勝手に呼んでる) 。

ザイド君は子供の頃にユーセフ君を見たのを覚えてたんですね。悪ガキだったのに、今では他の子をかばうまでに成長しています。

そして、死んでなお横田栄司さんの存在感〜。
マフムードが「いつか来るこの世の終末の日まで百年でも千年でもそなたを待ち続ける」と言っていましたが、イスラームもキリスト教やユダヤ教と同じく「最後の審判」の思想があります。 審判の日は明日来るかもしれないし千年後かもしれない。一神教の世界を生きる人々の独特の時間感覚です。

オマケで17世紀のダマスカスの市街図を置いときます。遠くの山は聖書に出てくるカシオン山、街を流れるのはバラダー川、緑の大地はグータの森です。シリアの内陸部は荒野が多いのですが、ダマスカスは緑あふれるオアシスのような都です。

Dumascus
Hidden Treasures of the Old City

現場レポ⑧

このあたりから時々、アーミナとユーセフの回想シーンが入りますが、これは前に収録したものの使い回しではなく、その場で読み直しています。だから、華さんも上口さんも一瞬で時を超えて19歳と17歳に戻って演じているんです。同じシーンでも、何も背負っていなかった頃と、いろいろな経験を越えてきた上で回想するのとではやっぱり違うので、あえてシーンごとに撮り直します。

あ、それと。ここで婚礼の天幕にゆっくり近づいてくるユーセフの足音。あれって、第4話で宴会から逃れて一人でミシュミシュの森を歩いていた時と同じ足音でしょうか? だとしたら「あの歩き方、知ってる」ってなりますよね。

この8回の収録後にちょっと休憩がありまして。通路で華優希さんとすれ違ったので「時を背負って変わっていくのがホントに素晴らしいです~!」と思わず思いを伝えさせていただきました。そこに桜咲彩花さんも通りかかってちょっとおしゃべり。役の上ではバチバチしているお二人ですがもちろん仲良しさん。お二人とも「史実の人物を演じるのは嬉しい」「自分の中で芯ができるような感じがします」と言ってくださって嬉しかったです。

ここですべての収録を終えて先に退場するカラクーシュ山賀さんが、別れ際に「なんかやりすぎちゃって、すみません」的なことを言われたので、いえいえむしろ大歓迎ですよ~!!と、すべてのアイユーブ朝ファンを代表してお礼申し上げておきました(^^♪

第9回 アサシン迫る

イメージイラスト/みかさのさん@kasago_yuu

後追い実況⑨

最後の相関図マップです。
今日はダマスカス、カイロ、アレッポの3都市物語。

なんかユーセフ君の声が少年から青年へ、さらに大人の男性から英雄へとゆるやかに変化してて上口耕平さんの声が妙に色っぽくて萌えます!  萌えませんか?

いやーなんか今回はこんなことになっちまってよ…(^_^;)

い、いや、真面目に解説をしようじゃないか。
マドラサで再会したザイド君はユーセフが生きたかもしれなかった、もうひとつの人生。みんなが超ドラマチックな芝居をしてる中、いい具合に力が抜けた等身大の若者の軽さが出ている横山賀三くんいいですよね!

で、これ ↓ は去年の7月にみかさのさんが別アカで描いてくれたユーセフとファーディルのガチゲンカ(今回は胸ぐらはつかんでません)。この時ツイッター上のやりとりで生まれた「一体あなたは何に囚われている?シリアという大地はあなたを呪縛する亡霊なのか?」というファーディルのセリフをドラマで再現してみました。

ドツいて嘲笑する藤岡ファーディルに全然負けてない上口ユーセフの「神の名を騙って虐殺する愚か者と私を一緒にするな!」ばさーっ(長衣翻す)カツカツ(去る)……がカッコよすぎて、1週間ぐらいフラッシュバックして仕事になりませんでしたよ……(;^_^

アレッポではファイルーズ様ふたたび。サーリフの死因は史実では不明で、暗殺とも病死ともわかりませんが、あまりにも若いし、アサシンの暗殺説があったのも事実です。
この時代のイスラーム圏では女性は一人で自由に旅ができません(現在でもそういうところはあります)。アーミナは特権を使い、護衛を引き連れて1週間かけて行きます。最後にサーリフに告げたのはアーミナのとっさの嘘です。

この原稿を書いていた時。
アサシン襲撃に気づいて、普段走らないファーディルが爆走してるのを想像したら笑えてきて、思わずツイッターでつぶやいたら、これもみかさのさんが別アカで漫画にしてくれました(仕事が早い!)。 王宮ではなく遠征先の軍営地にしたので、体力のないファーディルはさらにゼエハア言ってたはず。ぜひクリックして全体を見てくださいね!

暗殺教団のアサシンは実際にサラディン(サラーフッディーン)に刺客を送っていますが、運良く未遂に終わっています。果たして依頼したのは誰か? なぜ狙ったのか? は今も歴史の謎です。神の名のもとに理想のイスラーム世界を出現させようとしていたニザール派(当時の暗殺教団の母体。現在は穏健なシーア派の一派)にとって、世俗の新興権力者サラディンは、宗教的な理想の世界とは相反する存在に見えたのかもしれません。

ニザール派の居城マスヤーフの城についてはこちらもどうぞ↓

現場レポ⑨

この回はユーセフとファーディルのケンカ漫才、ということは上口耕平さんと藤岡正明さんの掛け合いが炸裂。ふだんから共演も多いので、さすがに息ピッタリですね!
全話、出っ放しでスタジオに張り付いている上口さんに対して、相変わらず自由で、出番になるとどこからともなくふらりとスタジオに現れる藤岡さん。アサシン襲撃後のシーンでは、「ここはラブシーンのような気持ちで、もう少しマイクに近寄って」と立ち位置を調整するディレクターさんに向かい、藤岡さんは「青春アドベンチャーは新しい次元に行くんですか?」とツッコミを入れて場を和ませてくださり。
他にもファーディルが発言するシーンなどでは、ディレクターさんと藤岡さんが、
「ここは17人ぐらいを前にしてしゃべってる感じで」
「16人じゃダメですか?」
「うーん、それだとちょっと少ないですね~」
とボケツッコミをしてまして、緊張感あふれるスタジオに笑いとリラックスした雰囲気をもたらしてくださいました。

あと「やべ、生きてる」のセリフは、やる前は「これ、音声だけで状況が伝わるかな?」という懸念の声もありましたが、藤岡さんがぶっとんだ演技をしてくださったので、あ、もうぜんぜんこれでおっけー、となりました。

アーミナとのバチバチシーンから、迫真の演技で幕を閉じたフェイルーズ様を演じた桜咲彩花さんはここでご退場。「演じてみたかった役」だとおっしゃってくださり嬉しかったです。

第10回 エルサレムへの道

後追い実況⑩

ザイド君が詠んだコーラン『太陽の章』置いときますね。

太陽とその輝きにかけて
太陽に従う月にかけて
光を現す昼にかけて
闇を包む夜にかけて

横山賀三さんのさりげない朗読よかったですね〜。マドラサで学んだザイドがここでスッとコーランの章句を引用できることが、まさにアーミナの生きた証だったとも言えます。

下↓は、あんまりいい写真じゃないけど… 私がダマスカスに住んでいた頃の、まだシリア内戦前のグータの森です。花のない季節。流れるのはバラダー川。遠くには聖書に出てくるカシオン山。

アーミナが亡くなったのは西暦換算で1186年の1月(イスラームのヒジュラ暦581年ズル・カアダ月)。おそらく40代後半。サラディンのエルサレム征服が1187年10月ですから、その前年です。 女性の没年が当時のアラビア語の歴史書に記録されるのは珍しいことです。

私は作り手としてこの物語に責任がありますが、オーディオドラマは多くの人の手でつくられ、役者の皆さんが息を吹き込み、そして出来上がったものは受け取ってくださった皆さんのものです。
いまも争いと虐殺が続く彼の地で、かつて同じように生きて戦い、平安を望んだ人たちがいたことが届きますように。

ここから先はオマケです。
語られたかもしれなかった言葉たち。

アーミナ 「幸せな日々。幸せな記憶。後世の人は私たちのことをどんなふうに語るのかしら? 英雄とその妻? でも私たち、ひと時この世で巡り合って、ミシュミシュの森で一緒に歩いて笑った、ありふれた人間だったのよ」

ユーセフ「はい、アーミナ様。いつの日か、また花の咲く頃に、あの森でお会いしましょう」
語り 「ユーセフはマフムードの剣を腰に帯びると、長い服の裾を翻し、アーミナの前から姿を消した」
ファーディル 「この剣、確かに受け取りました。命をかけて、わが主君のもとにお届け致します。この高潔なる魂に神のご加護があらんことを」

現場レポ⑩

出番が終わると一人また一人と帰ってゆかれますので、スタジオもだんだん人が少なくなり、物語の終わりを感じます。最後までいてくださった皆様にご挨拶させていただきました。
上口耕平さんに「昨日のことなのに1話の初々しい頃がすごく遠いですね」というお話をさせていただくと、「終わってからまた最初に戻って聴くと全然違うでしょうね」とおっしゃってくださり。このお言葉があったおかげで、YouTubeの直前番組で皆さんに録音を呼びかけることができました。

一番、「時間」を背負っていたのは、もちろん華アーミナ様と上口ユーセフくんですが、シリーンの彩吹真央さんも1回と10回では全然、発声の仕方が違うんですよね。少年少女からスタートしたアーミナ&ユーセフと違い、シリーンさんは35歳→60代ぐらいの変化なので、別の意味で難しい役だったと思います。しかも、平行している語りはずっと不変の声。それを同時にこなすなんて、まさにプロの技!(彩吹さんは『五番街のサリー』で多重人格の役もされているので、お得意なのですね)。

それぞれの役者さんがご自分の持ち味を発揮して、楽しみながらとても大切に演じてくださったこと、ほんとに感謝しています。ドラマチックな音楽をつけてくださった日高哲英さんとスタッフの皆様もありがとうございました。

そして、リスナーの皆さまに最大の感謝を!
物語は誰かが受信した時に初めて完成します。ものづくりに完璧はありません。作品はいつも「永遠の未完成」です。それを完成させてくださるのは(横田栄司さんが言われた通り)受け取ってくださった皆さまです。そういう意味では「永遠の未完成、これ完成なり」(宮沢賢治)と言えるかもしれません。

10日間の旅、ご一緒いただきましてどうもありがとうございました。
インシャーアッラー (神が望むならば)またどこかの物語の中でお会いしましょう。

これからも続く皆さんの人生の旅が、喜びと勇気に満ちあふれていますように。

リンク集

◆こちらもどうぞ 第1回~第3回/第4回~第6回

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