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気持ちに寄り添う映画との出会い『生きる LIVING』

不思議なことに、
気持ちが滅入っている時には、
気持ちに寄り添う映画と出会うことが多い。

先日見た映画『生きる LIVING』もそんな映画だった。
(※ここからはネタバレ注意)

舞台は1953年英国ロンドン。
主人公は長年役所勤めをしてきた初老の紳士だ。
ある日、医者から癌で余命半年と告げられる。
彼はある意味実直に役所勤めを全うする人生を送ってきた。
毎日のめんどうな業務は先送りにし、
住民からの陳情は別の課にたらい回しにする。
お役所的な仕事のやり方を踏襲してきた。
そんな彼は部下からゾンビというあだ名をつけられていたことを後に知る。
死んでるけど動き回れるゾンビ。

家庭では、
若くして奥さんに先立たれ、
男手ひとつで育てた息子夫婦と同居している。
しかし家でも息子夫婦から疎まれ、
癌であること、余命半年であることさえ、告げられずに毎日を送っていた。

さて、余命半年と告げられた時、
人はどうするだろうか?
家族との時間を大切にする。
仕事を辞めて旅に出る。
お金が尽きるまで遊ぶ。
恋人を作って楽しく過ごす。
しかしこの物語の主人公の選択はそのどれにも当てはまらなかった。

残りの人生を活き活きと生きることにしたのだ。

住民婦人たちが以前から訴えていた子供の遊び場問題を
書類の山から引きずり出し、
役所の中を駆け回って公園建設に尽力する。

そしてやっとの思いでできあがった公園で、
老紳士はひとり雪降りしきる中、ブランコに乗りながら息絶える。

彼が作り上げだものは小さな公園だけではなかった。
部下たちへ仕事の取組み方のお手本を示して見せた。

余命半年宣告された後、
人のとる行動はさまざまだろう。
彼の場合はゾンビではなく、
子供の頃に憧れた「働く英国紳士」として最後まで生きることを選んだ。

黒澤明監督の不朽の名作『生きる』(1952年)をカズオ・イシグロの脚本で蘇ったこの映画に、
この時期に出会えて良かった。

#映画にまつわる思い出

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