布団紀行
布団から出たくない。
菜々子は冬の休日の朝、薄いカーテンから漏れてくる光を感じながら、涙を流した。
出たくない出たくない全然出たくない。洗濯だってしなくちゃいけないし、掃除だって絶対したほうが気持ちいい。お風呂だって入ったらスッキリする。分かってる分かってる、分かってるけど、出たくない。だって布団の中ってこんなに幸せ。手放したくない。菜々子は泣いた。おおいに泣いた。その涙はやがて敷布団全体に行き渡り、じっとりと湿っていった。
あぁ、こんなに布団が湿ったのなら、これだって干さなきゃならない。
そう思った瞬間、菜々子を包んでいた布団がふわりと浮いた。
えっ。
布団はふよふよと浮いて窓枠のちょうど鍵のところで止まった。まるで、鍵を開けなさい、といったようであった。菜々子はおそるおそる鍵を開け、窓をゆっっっくりと開けた。布団が通るには窓枠が狭かったが、布団は菜々子を包むように湾曲して、窓枠をじりじりと通り抜け、音もなく空へと、エレベーターよりは遅い速度で舞い上がった。
え、何これ何これちょうこわいんですけど。
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