夕日待ち
トクオさんはオレンジ色が好きだった。夕日の色だと言っていた。夕日が好きだから、オレンジ色が好きなのか、はたまた逆か、それは分からなかったけれど、オレンジ色のタオルが洗い上がると、すごい早さで畳んでいく。
この授産施設には毎日色とりどりのタオルが運ばれてくる。僕たちはそれをすごく大きな洗濯機で洗って、すごく大きな乾燥機で乾かし、きれいに畳んで返す。赤、ピンク、緑、オレンジ、青、水色、紫、黄、同じ色のタオルでも、何回洗ったかで微妙に色が濃かったり薄かったりして本当に色とりどりだ。同じ色なんてないように見える。
午前と午後に一回ずつ休憩があってその度にトクオさんはタバコを吸う。そのとき、必ず遠いどこかを見ている。何してんの、と聞くと、「夕日を待ってんだ」とおきまりのセリフを言ってくれる。それはどうやらトクオさんの大好きな昔の映画の名ゼリフらしい。トクオさんがそう言うとなんだかほんとにキマってて、僕はときどき、トクオさんに何してんの、と聞くことにしていた。
乾燥機で乾かしたタオルを畳んでいると、少しずつ体に静電気がたまって、不意に金属や人に触れると弾けることがある。そんな風にして僕は彼女に別れを告げられた。次の日は、やっぱり、仕事をしててもかなしかった。
仕事が終わったとき、めずらしくトクオさんから、よう、ニイちゃん元気ねえなあ、と話しかけられた。やぶれかぶれな僕はトクオさんに彼女と別れたことを告げると、トクオさんはこう言った。
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