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名前が、キラリ

 妃星、それが彼女の連れ子の名前で、きらら、と読む。

 いや読めない。読めないが、そう読む。

 名付けた彼女の元夫は、若いのに湘南爆走族に心底憧れていたという。いまどき湘南爆走族に憧れるあたり、なんと純朴な…と好感がもてるが、名付けのセンスはやはり現代人。

彼女も十七歳という若さから、ノリノリで、妃星という名前に賛成した。(そのことについて、酔っぱらったときに「若かったの…」と漏らしたことがある)

 LINEで連絡するとき、このごろは「きららちゃん」や「キララ」と入力している。漢字で入力しようとすると、「ひほしちゃん」になるのだ。最初は律儀に漢字で妃を一度変換し、星を変換していた。しかし、急いでいるときなど、そんなしちめんどくさい変換はやっていられず、はたまたいちいち漢字に変換するのも、彼女に「お前の名付けのセンスをとくと見よ」と当てつけているようで、自然にひらがな、カタカナの表記になっていった。

 彼女とは彼女が二十六歳のときに出会ってもう、二年になる。よく行くコンビニの店員と客として出会った。彼女がレシートの裏にLINEのIDを書いて渡してくれたことから関係が始まった。

 LINEのタイムラインでシングルマザーと分かってひるんだ。

 初めてのドライブデートのときに当たり前に子どもを連れてきたときもびびった。

 しかしすでにキララそのとき九歳。絶妙に空気が読める。

 こちらがいい雰囲気になりそうなときは、ママ、ちょっとあっちで遊んでくる、と距離をとったり、分かりやすい寝息を立てて狸寝入りをキメてくれたりする。空気読めすぎ、あからさますぎ、で気まずい瞬間もあったが、なんとなく三人でいると居心地が良くて二年続いている。

 そんなキララ十一歳と、いま、二人で彼女の買い物を待っている。キララは突然切り出した。

「たっくんさー、おかーさんと結婚するの?」

「 」

 ママとさー、結婚しないんだったらさー、はやめに別れたほうがよくない?

 たっくんおかーさんより年下だしさー、今のうちに遊んどいたほうがよくない?

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