見出し画像

みかん鯛とチャリンコ

母方のじーさんは、7、8年前に死んだ。自転車で近所を爆走してた日に、風呂場でポックリ逝った。何の予兆もない死に、誰もがびっくりさせられた。

里帰りをしていると、母の実家に泊まることも多い。第2の家、という感じだ。

そのとき、仏壇のある畳の間に寝るのだけれど、欄間にじーさんのいい顔した写真が飾られている。じーさんに見守られながら、寝る格好になる。

じーさんはどこにでもチャリンコで行く。小さい頃はそのチャリンコの後ろに乗ってアイスを買いに行った。チャリンコの後ろに乗れなくなった日は寂しかった。
よく刺身を作ってくれた。
鯛を、湯引きして、氷水にさらすやりかた。嬉しそうに刺身を食べる私を、嬉しそうに見ていた。

久しぶりにまじまじと、じーさんの顔を見て、感慨に浸る。隣には私の娘がいる。じーさんのひ孫。感慨に浸らざるを得ないシチュエいション。

でも、じっと見ていると、いらんことも思い出す。
酒呑みで酔うとめんどくさかったこと。
扉を開けたら謎の体操を無音でやっていて不気味だったこと。(昼間のみのもんたでやってた体操だと思われる)

ちょっと笑けてきて、出かけた涙もひっこむ。

けれど、じーさんはまだ私の中で生きている。それが、嬉しかった。

みかん鯛という、養殖の鯛がある。出荷前にみかんを食べさせて育てた鯛だ。身からみかんの匂いがして、湯引きしなくても、脂に品があって、味が濃い。
刺身は絶品。
これは私の人生で一番、美味しい鯛の刺身だ!と言うと、母が、じーさんに怒られるよ、と言った。

身軽になったじーさんのチャリンコは京都まで私を叱りに来てくれるだろうか。


#日記 #エッセイ #コラム #家族 #思い出の味

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?