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別離の朝

 もう一年になる。
 離島に移住を決断した時の最大の心残りが愛犬との別離だった。
 幸いにも知り合いを通じて里親が見つかり、帰郷の際には会えるけれど。それでも側にいない寂しさは募る。

 離婚して独り暮らしとなり、家族で住んでいた家が広大となって、その空虚な冷たさに睡眠障害を起こした。その家は直ぐに人手に渡った。
 その時点に独り暮らしで犬を迎えるという、とんでもない選択をしたのだけど。それでも埋めきれない心の闇があった。

 この仔の仕草ひとつでどれほどの癒しを貰えたか。
 この仔を慈しむことでどれほどの未来を描けたか。

 しかしながらコロナ不況で生活の基盤が危うくなる。心労の余りに睡眠障害は加速する。その時期に一番辛かったのは、孤独な元旦だった。
 仔犬に起こされたが、眩暈がして動けない。
 体温を計測すると34.4℃を示している。別の体温計で測るとなお酷い数値だ。
 ネットで調べると心身の強迫性障害による低体温症と出た。暖房設備をフル稼働して体を温めて、食欲もないが詰め込んで、よろよろと午前中一杯を歩き回って血の流れを促した。
 この仔が起こしてくれなかったらと想像すると、ゾッとする。
 精神科の友人にアドバイスを貰うと、転地療法が一番だという。それで移住を真剣に考えたが、準公務員という立場で、官舎となる。
 苦渋の決断だが、別離を覚悟した。

 その別れの朝の、わが仔である。

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