離婚式 36
洞窟のような場所にいた。
光を感じない漆黒の視界。
全裸なのか、何かを着ているのかもわからない。
身体がいうことをきかないので、そのまま横になっていた。
不思議と不安感はなかった。
時間の感覚が希薄な感じね。
いつまでも寝ていられるのは、ワタシには好都合よ。おトイレが近い様子でもない。喉の渇きもない。そう肉体の感覚もないの。
重力のない闇のなかで、奇妙な浮遊感をもって漂っている。
ただそれだけ。
白い爆発を脳裏に感じた。
それが小さな塵を撒き散らしているように、光になって広がっていく。それをじっと見ている。
ワタシの身体のなかだというのに。
それを見下ろしているのか。
見上げているのか。
それすらもよくわからない。
お盆の花火のように広がるそれは、雲が漂うように緩慢に広がっていく。それがただ眩しいというのは、わかる。
ふと呼吸すらしていないことに気づいた。
息をのむということも、それに胸がきゅんとなる痛みもない。
ただ意識がある。不定形な意識がどこまでも拡散して、ベッドの端から零れている気がする。
この思考は誰のものなの。
ワタシ自身のものなの。
では、この思考を覗き見しているワタシは誰なの。
その光の奔流が一気に襲いかかり、自我が呑み込まれた。
淡い光ですら目に痛い。
思わず瞼を閉じようとした。
が、それは叶わなかった。
目の前に自分の顔がある。横向きになっているが、眼に焦点がない。昏い洞窟のような、得体の知れない畏れだけがある。
喉に違和感があって。
大量の唾液とともにそれを吐き出した。
男根が両端についている玩具。電動でうねる凶暴な玩具。それを嚥下して、身体が大きく咳き込んでいる。それはさっきワタシとりょうを繋いだ玩具。
その視界にはワタシの顔がある。
そちらは玩具を頬を、膨らませて頬張ったまま。青ざめている、というより黄ばんでいる。むっくりと上体を起こした身体が、壁に設置された鏡に写っている。それは肩出しの攻め込んだ、紺色のワンピ。長い黒髪。
その姿はりょうのものだ。
りょうが全裸のワタシの髪を優しく撫でている。
それから瞼を閉じさせてあげている、その姿を鏡面で眺めている。
ベッドには歪な形でのたくった身体が見える。それで初めてそこに魂がなくて、何故だかりょうの肉体に宿っていることを、知った。
乳房が横に流れている。
涙も、溢れてはこない。
ああ、可愛くない身体。
そんなことになるんだったら。
お臍の横にピアスを開けておくんだったな。
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