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恋愛脳を紐解けば 2 | 忘れっぽい詩の神

 夜半の悪夢に、想い出してしまった。
 脳の記憶野とされる海馬に施錠して封印されたものか、大脳皮質のファイルに厳重に挟んであったものかは知らない。
 本人の意思としては極力、忘れようと努めていた。が、神さまの配慮であろうか消去されていなかった。

 人間にはモテ期というものがあるらしい。
 それは傍目からはよく見えてくるもんだ。
 美人を日影で涼ませてジェラート🍨を受取りにいく間にも、デート中にも関わらず、誰かしらが声を掛けている。そんな娘を連れ回していると、その言葉の信憑性に裏書きしてもいい。
 
 あれは、まだ肌寒かったので春先だったと思う。
 小学校6年生で、既に進学塾に通い始めていた。
 自宅の風呂が壊れてしまったのだろうか、母とふたりで銭湯に行くことになった。
 あれだけ授業中にちょっかいを出していたにも関わらず、例の男勝りな娘、女子グループの頂点とは同級生だった。
 それでも担任の意図なのか、妙に席は遠くなった。隣にいるのは、彼女のグループの次席の参謀格NO.2ではあるので、安堵はできないけれど。

 私は湯上がりに牛乳を飲むのが、その銭湯での習慣だった。間が悪く父はその場におらず、小銭入れは母の籠にしかない。
 低学年の頃のように、邪気なく番台下の潜り戸を頭で押し開けて、女湯に行き、母の籠を探って小銭入れを探していた。
 カラカラと音を立てて浴場のガラス戸が開かれる、そこには全裸の、あの女子グループの参謀格が眼を丸くして立っていた。
 私は硬直して、視線は釘付けになった。
 第二次性徴が始まっていて、明らかに乳房の形に育っている。彼女は慌てて両手を交差してそれを隠した。
 私の知るハレンチ学園では上下を隠すものだけど。
 悲鳴ひとつあげずに、後退するのを合図のように。
 狼狽えながら私は小銭入れを諦めて、男湯に遁走した。

 朝靄のかかるような寒い朝だった。
 私の憂鬱な思いを想像して欲しい。
 まして彼女とは席がお隣りである。
 女子全体から疎まれ、憎まれるのではないか。色んな尾鰭がついて校内で噂されるのではないか。そしてかのトップの娘がどう感じるだろうか。
 一歩一歩が重く、学校までの通学路が永遠に続いて欲しいと思った。その角を曲がっていくと、昨晩の参謀格の娘が立っていた。
 総毛立つというのは、ああいうものだろう。
 しかし彼女は私と並んで歩き出した。そうして耳元に囁いた。

 ふたりの秘密だからね。

 彼女の口は堅く、秘密は外に漏れてない。
 私は、地元の中学を選ばず男子校に進む。
 小学校の同窓会には参加したこともない。

 
 
 
 

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