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優しい天秤 I 痩せたガールの日常

 今月は厳しいな。
 進行表をスマホで管理している。
 もう銀杏の並木道に木枯らしが駆け抜けている。
 歩道には植物の実とは思えない、生臭さを放つ実が散らばっている。踏み潰されたのは数個でしかないのだけど。生焼けの肉の匂いにも似ている。
 来月には年末進行に入るけど。
 その前にクリスマスにかけての特集がある。
 それが辛い。
 でも時期的にはタイムリーだろうな。
 フレンチのBISTROを特集ですって。
 また胃腸が荒れてしまうな。メールに添付されている店舗を地図アプリに落としていく。営業時間も忘れずに、店舗にご迷惑はかけられないわ。
 そして店舗のHPの内容も吟味する。料理写真をチェックしながら記憶を辿って、長年書き続けてきたブログで訪問していないかを確認する。
 それでも今回の特集は料理雑誌では有名所。
 女性誌のオーダーであれば写真素材で何となく書けてしまうのだけど。
 今回の依頼人は違う、実食のうえ完食が求められ大御所なので不義理はできない。その記事を書いているだけで、次のオーダーに繋がっていく。

 最近はどうなの?

 そう囁いて抱き締める指が探っている。
 指先が考えている意味が、ぴんとくる。
 貴方ねぇ、摘ままないでくれないかな。

 むしろ胃痛で減ってきている。
 また胃を壊したかもしれない。
 それでも来週は、午前からフレンチ三昧で日に5食をこなさないと、記事があがらない。締め切りまでのリードタイムが少ない。年末進行がもう目前に迫ってきている。ピークは月末になると思う。

 そうそう、年越しにはどうするの。
 あ、Xmasもあったよね。でもキミって仕事柄で廻っているから。
 本当は何を食べたいの。

 そうね。その時期までは忙しいわ。入稿ギリギリで企画の差し替えもあると思う。
 年越しにはお茶漬け。
 元旦には卵ご飯、それを貴方が手作りで料理してよ。
 私の部屋でね。
 それが仕事柄の私の数少ない贅沢。
 きっとお財布にも身体にも優しい。
 一皿の贅沢って、大事と思うのよ。
 

 


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