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待ちぼうけ

 峠はもう雪で通れないかもね。
 そう考えながら、湯気を立てる珈琲に視線を送る。
 この辺りでは小雨だけど、峠の向こうは雪になるのがこの季節。
 高原ドライブウェイに繋がる高台のcafé、曇天の鈍色の海も、駐車車両越しにその一本道をも臨める場所だ。
 冷めないうちに、とは思いながら、また凍てついた高原に思いを馳せる。
 こんな日に出かけるなんて。
 それもバイクでなんて。
 ヘルメットの中でどんな顔をしているのかな。
 スプーンでプディングを刻んで口に入れる。苦味走ったカラメルで人気のお店。この焦げる一歩手前に火から下ろすのは熟練の技が効いている。
 ここまで、ギリギリまで攻め込むことはやめにした。彼はまだまだ稚い部分がある。それを認めてあげないと。
 珈琲を含んで、余韻を楽しんでみる。
 それもブラックだし、別の波長の苦味が舌を悦ばせている。
 確かにオフロードを走るタイプらしいけど。
 彼には小雪舞うくらいが愉しいんだろうけど。
 私を放っておいて、さ。
 また一口頂いて、珈琲を含む。
 さて私はこのぽっかりと空いた午後をどうしようかな。
 思案をしていると、奥のブースにいる男子たちの視線が突き刺さる。
 席を立ってお店を出たくなったけど。
 それでもなあ、もうしばらくこの時間を大切にしたい。
 曇っている窓の外に近づいてくるライトが見えてきた。
 丸目が並んでこっちに向かってくる。もうすぐあのエンジンの鼓動が伝ってくるだろう。
 私はボウイに手をあげて、もうひとセットを頼むことにした。


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