![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/126723357/rectangle_large_type_2_bec3e0d556499858c742e4327950bd16.jpeg?width=800)
待ちぼうけ
峠はもう雪で通れないかもね。
そう考えながら、湯気を立てる珈琲に視線を送る。
この辺りでは小雨だけど、峠の向こうは雪になるのがこの季節。
高原ドライブウェイに繋がる高台のcafé、曇天の鈍色の海も、駐車車両越しにその一本道をも臨める場所だ。
冷めないうちに、とは思いながら、また凍てついた高原に思いを馳せる。
こんな日に出かけるなんて。
それもバイクでなんて。
ヘルメットの中でどんな顔をしているのかな。
スプーンでプディングを刻んで口に入れる。苦味走ったカラメルで人気のお店。この焦げる一歩手前に火から下ろすのは熟練の技が効いている。
ここまで、ギリギリまで攻め込むことはやめにした。彼はまだまだ稚い部分がある。それを認めてあげないと。
珈琲を含んで、余韻を楽しんでみる。
それもブラックだし、別の波長の苦味が舌を悦ばせている。
確かにオフロードを走るタイプらしいけど。
彼には小雪舞うくらいが愉しいんだろうけど。
私を放っておいて、さ。
また一口頂いて、珈琲を含む。
さて私はこのぽっかりと空いた午後をどうしようかな。
思案をしていると、奥のブースにいる男子たちの視線が突き刺さる。
席を立ってお店を出たくなったけど。
それでもなあ、もうしばらくこの時間を大切にしたい。
曇っている窓の外に近づいてくるライトが見えてきた。
丸目が並んでこっちに向かってくる。もうすぐあのエンジンの鼓動が伝ってくるだろう。
私はボウイに手をあげて、もうひとセットを頼むことにした。
![](https://assets.st-note.com/img/1704457127012-JzbFWKuX0k.jpg?width=800)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?