台湾2018 夏の旅 1
あの旅は6年前になる。
iPadの機能で、数年前の写真がトップに現れて、封印した思いが溢れてきた。そう傷心の旅でもあった。
既に家庭のひびが明らかになっていた。
きっかけは5月下旬に愛犬が急死してしまったことだ。
私は学習塾を経営していた。
学習塾の塾長になった頃、「家庭が壊れやすいから気を付けてね」と助言を受けた。その当時は深刻には受け止めてはいなかった。
しかしながら。
午後3時より出勤して勤務終了して、帰宅するのは日を跨ぐことも多い。家族で夕食を摂るのは月に4回程度。同じ場所に過ごしながら単身赴任に近い状況になる。
日中には独りで過ごすことになる。
妻は仕事があり、子どもには学校がある。
膝には愛犬がうたた寝をしていて、この愛犬の存在が家族の絆になっていた。話題に窮すると、愛犬をフックにして会話を繋いでいた。
愛犬の葬式を終えて。
いつかはまた飼いたいね、というと皆が反対した。
その瞬間からだろうか、ペットロスが鬱病に発展していった。
不眠症と下痢が止まらない。下着を汚すこともままある。不甲斐なさに泣きたくなるが、泣けない。
それでも何か気晴らしを求めていた。
かつてお盆には家族で旅行をしていたが、子どもが高校生になり「お父さんイヤ期」に入りその習慣もなくなっていた。
台湾を旅行すると告げても反応が薄かった。
私がこの家に居なくても、家族には日常のままであったろう。
何かに藻掻くように、久しぶりに国際線に乗り、台湾に降り立った。
台湾はそれなりに熱かったが、それでも湿気はなく快適だと思った。
かつて東南アジアを放浪していた時を思い出した。スコールのある熱帯の方が涼しいときすらある。
空港で両替をすると、どこか人民元を思わせる色合いで、文化圏の近似性を感じた。空港からの地下鉄を利用して市内に入る。
道路を挟んで商店通りには屋根がかかり、空調が流れていて涼しい。
スマホを頼りにホテルに辿り着いたが、複雑な鉄柵が壁面に張り巡らされて、とても商売っけのないビルの内部にあった。
しかしながら部屋は広く快適だった。
ここを根城にして、自らの覚醒を期待することにした。
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