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ペンネーム

 もう30年になる。
 その頃は小説家を目指した2番目の時期で、地方のミニコミ誌やフリーペーパーなどの原稿を書いていた頃で、充分に若かった。
 その年の晩秋の頃、初めての帯の連載を頂いて「ペンネームはどうする?」という話になった。
 私は持ち帰って考えると暫く悩んだ。
 帯作品には自分で縛りを作っていた。

 一人称の私小説であること。
 女性一人称が書けるくらい精進すること。
 基本的な文体はhard boiledを意識すること。

 それがどういう理由なのかというと、まず一人称は唯一の映画・アニメにできない表現方法であることで。
 女性一人称って、知識が潤沢に必要なハードルを自ら課すわけで。
 ハードボイルドという文体は、探偵や事件が出るジャンルではなく、暴力的であるとか扇状的であるものでもなく。感情表現を抑えて冷静に叙述する、元探偵のダシール・ハメットが事件調書の文体を基礎として確立したものだ。
 淡々と行動描写で進めていく文体なので、小説にするとキレがあると信じていて。

 なので。
 恋愛脳に憑かれたようなお話も、今も恋愛系hard boiledとして、書いている。
 気がつくとこの半年で多作になったものだと思う。多作ということは主人公の語り手として務めてきたことだ。

 自分の舌はひとつしかないが、様々な人格で物語を語って行こうと思い、百の舌と書いて百舌と名乗っている。
 そして31年目を迎えようとしている。

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